事業承継税制を検討するとき、多くの会社ではまず「後継者へ株式をどう移すか」「相続税・贈与税の納税猶予をどう受けるか」「特例承継計画をどう提出するか」といった入口の論点に目が向きます。
ところが、実務の現場で本当に慎重に考えておきたいのは、その先のことです。制度を使ったあとに、会社を続けられなくなったらどうなるのか。ここを見落としたまま入口だけを整えてしまうと、後々の判断が難しくなります。
後継者が会社を引き継いだあとも、事業環境は移り変わります。主要取引先の喪失、業界構造の変化、人材不足、金融機関対応の悪化、設備更新の負担、後継者自身の健康問題、親族間の不一致、許認可や地域需要の変化。こうした要因が重なれば、承継時にはまったく想定していなかった廃業・解散・清算を、やむを得ず検討せざるを得ない場面も出てきます。
事業承継税制は、非上場会社の株式等について贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の事由が生じたときに免除する制度です。特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、猶予割合が100%になるなど、効果は非常に大きくなっています。ただ、ここで押さえておきたいのは、制度の本質が「非課税」ではなく、あくまで「納税猶予」だという点です。後継者の死亡など免除事由に至る前に取消事由や確定事由が生じれば、猶予されていた税額の納付があらためて問題になります。
法人版事業承継税制は、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を、相続・遺贈または贈与によって取得した場合に、一定の要件のもとで納税を猶予し、後継者の死亡等によって免除する制度です。
出典:国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
本稿では、この法人版事業承継税制を中心に、適用後に会社を解散・清算・廃業する場合、納税猶予にどのような影響が及ぶのかを整理していきます。なお、清算申告書の具体的な作成方法、破産・民事再生・特別清算といった個別手続、M&Aによる第三者承継の進め方については、本稿では扱いません。
まず「解散」「清算」「廃業」を分けて考える
最初に、言葉の整理から始めたいと思います。
ひとくちに「廃業」といっても、その実態はさまざまです。法律上の解散をしていない会社もあります。営業を止めているだけの会社、取引を縮小して休眠状態に近い会社、事業を第三者に譲渡して法人格だけが残っている会社、すでに清算手続に入った会社。これらは、税務上も会社法上も、それぞれ置かれている状態が異なります。
「解散」とは、会社が通常の営業活動を終え、清算に向かうための会社法上の状態を指します。株式会社は、株主総会の決議、定款で定めた存続期間の満了、破産手続開始決定、合併による消滅など、一定の事由によって解散します。ただし、解散したからといって、直ちに法人格が消えるわけではありません。清算の目的の範囲で、会社はなお存続します。
「清算」とは、解散後に、現務を結了し、債権を回収し、財産を換価し、債務を弁済して、残った財産を株主に分配していく一連の手続です。清算人は、就任後すみやかに財産目録と貸借対照表を作成して株主総会の承認を受け、現務の結了、債権の取立て、債務の弁済、残余財産の分配を進めていきます。
そして「廃業」は、実務でよく使われる言葉ですが、「事業をやめる」という経済的・実務的な意味合いの強い表現です。事業承継税制との関係では、「廃業した」という一言だけでは判断ができません。会社が法的に解散したのか、清算中なのか、破産・特別清算なのか、事業譲渡後に法人だけが残っているのか、総収入がゼロになったのか、資産管理会社化しているのか。ここをひとつずつ切り分けて確認していく必要があります。
解散は、納税猶予の「出口」ではなく「確定リスク」
事業承継税制を適用した会社が解散した場合、納税猶予は通常、大きな影響を受けます。
とりわけ、申告期限後5年間の事業継続期間中に会社を解散すると、「後継者が代表者として経営を続け、会社が事業を継続する」という制度の前提そのものが崩れてしまいます。そのため、解散は、納税猶予の期限確定・取消につながる典型的なリスクとして扱われます。
特例措置であっても、解散すれば当然に税負担が消える、というわけではありません。たしかに制度上は、将来の売却・廃業の時点で株価が下落していた場合に、一定の要件のもとで株価等をもとに納税額を再計算し、承継時の株価で計算された納税額との差額を減免する仕組みが用意されています。ただ、これは「廃業すれば税金が免除される」という性質の制度ではない、という点に注意が必要です。
制度の整理としても、会社の解散は、5年以内・5年経過後のいずれの場合でも納税猶予に影響する事由として扱われます。経営環境の変化に該当する場合には猶予税額の再計算を検討する余地はあるものの、何もしなくても免除される、というわけではない。ここが大切なところです。
5年以内の解散と、5年経過後の解散を分けて考える
事業承継税制では、申告期限後5年間の事業継続期間が、ひとつの重要な区切りになります。
中小企業庁は、認定の有効期限について、後継者ごとに、最初に事業承継税制の適用を受ける贈与税または相続税の申告期限の翌日から5年を経過する日までと説明しています。この期間中は、認定ごとに年次報告が必要になります。
5年以内に解散する場合、「後継者が代表者として事業を継続する」という制度の中核部分が維持できなくなります。そのため、納税猶予を維持することは極めて難しくなります。実務としては、猶予税額の全部について納付が問題になる方向で検討せざるを得ないことが多いといえます。
では、5年を経過すればすべて自由になるのかというと、そうではありません。ただし特例措置では、経営環境の変化によって事業の継続が困難になった場合に、一定の売却・廃業等について税額を再計算し、差額の免除を受けられる可能性があります。国税庁も特例措置について、事業の継続が困難な事由が生じた場合には、譲渡対価の額等に基づいて再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額を免除する仕組みを説明しています。
出典:国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
つまり、5年経過後の解散は「納税猶予が安全に続く」という意味ではありません。一定の条件を満たせば、猶予税額の再計算・差額免除を検討できる場面がある、という意味にとどまります。
「事業継続が困難な事由」があれば、必ず免除されるわけではない
特例措置には、将来の売却・廃業時の税負担を軽くする仕組みがあります。ただ、この点だけを取り出して「経営が悪くなれば免除される」と理解してしまうのは危険です。
国税庁の手続案内では、事業の継続が困難な事由が生じた場合において、特例経営承継期間の末日の翌日以後に、納税猶予の適用を受けている者または対象会社が一定の免除事由に該当したときに、猶予中の贈与税額または相続税額の免除を受けるための手続が設けられています。
出典:国税庁|B1-76 事業の継続が困難な事由が生じた場合の非上場株式等についての納税猶予の贈与税・相続税の差額免除申請手続(特例措置)
ここで押さえておきたいのは、次の3点です。
第一に、対象となるのは原則として特例措置であり、一般措置では同じ形の将来減免は用意されていない、という点です。国税庁の制度比較でも、特例措置では事業継続が困難になった際に譲渡対価等をもとに再計算した猶予税額を納付し、差額免除を受ける仕組みが示される一方、一般措置では猶予税額を納付するという整理になっています。
出典:国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
第二に、5年を経過していることが前提になる、という点です。5年以内に会社を解散する場合は、事業継続期間中の要件逸脱として扱われる可能性が高く、将来減免の制度だけを頼りに判断することはできません。
第三に、「事業継続が困難である」という事実を、あとから説明できる資料で示す必要がある、という点です。経常赤字、売上の減少、有利子負債の負担、同一業種の上場株価の動向、その他やむを得ない事情など、制度上想定されている判断要素を、決算書、事業計画、資金繰り表、金融機関資料、取締役会・株主総会資料といった形で整理しておかなければなりません。特別な減免措置では、赤字基準、売上高減少基準、有利子負債基準、同一業種の上場株価基準、特段の理由基準といった枠組みのなかで、事業継続の困難性を検討していくことになります。
倒産による免除と、自主的な廃業・解散は同じではない
「会社を畳む」とひとことでいっても、破産手続や特別清算と、任意の自主解散とでは、意味合いがまったく違います。
会社が倒産した場合には、納税猶予税額が免除される場面があります。実務上の整理でも、免除事由のひとつとして「会社の倒産」が挙げられています。
ただし、ここでいう倒産は、単に経営が苦しい、資金繰りが厳しい、赤字が続いている、という意味ではありません。破産手続開始決定や特別清算開始命令といった法的整理が問題になる場面を想定したものです。自主的に解散し、任意清算を進めていく場合は、倒産による免除と同じ扱いになるとは限りません。
ですから、後継者が「このまま続けるより畳んだほうがよいのではないか」と考える局面では、まず次のどれに当てはまるのかを整理することが出発点になります。
- 通常清算で足りるのか
- 債務超過で、特別清算や破産を検討すべきなのか
- 事業譲渡・M&Aによる第三者承継の余地があるのか
- 会社は残して、事業だけを縮小するのか
- 資産管理会社として残るのか
- 納税猶予の取消・再計算・免除手続を、どの段階で検討するのか
この分類を誤ると、税務上の負担だけでなく、金融機関、取引先、従業員、親族株主への説明にも影響が及びます。
清算では、残余財産の分配と納税資金を同時に見る
解散後の清算手続では、会社財産を換価し、債務を弁済し、残った財産を株主へ分配していきます。清算事務が終了すると、清算株式会社は決算報告を作成して株主総会の承認を受け、清算結了によって法人格が消滅します。
この流れは、納税猶予を受けている後継者にとって、非常に重要な意味を持ちます。
納税猶予が取り消される、あるいは猶予期限が確定する場合には、後継者個人に税額の納付が生じます。ところが、会社を清算する局面では、会社の資金はまず債権者への弁済、租税公課、従業員への未払賃金、清算費用などに充てられます。株主に残余財産が分配されるのは、そのあとです。
そのため、後継者が「清算すれば、会社に残っているお金で払える」と考えていたとしても、実際に後継者個人がいくら受け取れるのか、残余財産の見込みをきちんと確認しておく必要があります。
さらに、残余財産の分配は、株主の側でみなし配当や株式譲渡損益といった課税関係を生じさせることがあります。個人株主である後継者の場合は、所得税・住民税の負担も含めて、納税猶予の確定税額と残余財産の手取りを同時に試算しておくことが欠かせません。
会社の解散・清算では、解散日から清算結了までの間に、財産目録、貸借対照表、債権者公告、債務弁済、残余財産分配、決算報告、清算結了登記といった手続が続いていきます。清算事務とは、単に会社を閉じるための事務ではなく、財産と債務を確定させ、株主にどれだけ残るのかを明らかにしていく作業なのです。
清算中の法人税・地方税も忘れない
事業承継税制の納税猶予にばかり注意を向けていると、清算会社そのものにかかる法人税・地方税を見落としてしまうことがあります。
平成22年度の税制改正により清算所得課税は廃止され、清算中の法人についても、各事業年度の所得に対する法人税が課される形になりました。清算中の各事業年度では、通常の所得課税の考え方にしたがって、益金・損金を計算します。残余財産がある場合には、残余財産が確定したあとに確定申告を行い、それから残余財産の分配、株主総会、清算結了登記へと進んでいきます。
法人税法上も、内国法人が事業年度の中途で解散した場合にはその解散の日を、清算中の法人の残余財産が事業年度の中途で確定した場合にはその残余財産の確定の日を、それぞれ事業年度の区切りとする取扱いがあります。
清算にあたっては、会社側の法人税・消費税・地方税、株主側の所得税・住民税、後継者個人の猶予税額、担保の解除、金融機関への弁済、保証債務の整理を、一体として見ていかなければなりません。
税務上は、「猶予税額がいくら確定するか」だけが論点ではありません。実際に、いつ、誰が、どの資金で納付するのか。ここまで含めて考える必要があります。
廃業しても、法人を残す場合のリスク
後継者が「事業はやめるけれど、会社そのものは残しておく」と判断することもあります。
たとえば、事業を停止したあと、不動産や有価証券を保有するだけの会社として残す。在庫や設備を処分しながら、数年間は休眠状態に置く。借入金の返済だけを続けていく。特許・商標・不動産だけを保有する会社にする。こうしたケースです。
この場合、法的には解散していなくても、事業承継税制の観点からは別のリスクが生じます。
ひとつは、資産保有型会社・資産運用型会社に該当するリスクです。事業活動が縮小し、金融資産・不動産・遊休資産の比率が高まっていくと、対象会社の要件を満たさなくなる可能性があります。
もうひとつは、総収入金額がゼロになるリスクです。事業活動が実質的に止まってしまうと、「会社が事業を継続している」とは説明しにくくなります。
加えて、都道府県への年次報告や税務署への継続届出は、会社が実質的に休眠していても、制度の適用を続けるかぎり管理が必要です。国税庁は、継続届出書を期限までに提出しなかった場合、その提出期限の翌日から2か月を経過する日に、納税猶予に係る期限が確定すると説明しています。
出典:国税庁|B1-66 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の継続届出手続(特例措置)
廃業後に法人を残す場合ほど、こうした届出や報告は軽く見られがちです。しかし、事業を行っていない会社ほど、制度を維持するための説明資料は乏しくなっていきます。会社を残す理由、収入の有無、資産の構成、後継者の代表者としての地位、対象株式の保有状況、今後の清算方針。これらをあらかじめ整理しておくことが大切です。
「清算すれば株価が下がる」だけでは判断として不十分
解散・清算を検討する場面では、「会社の価値は下がっているのだから、納税猶予税額も小さくなるはずだ」という発想が出てくることがあります。
しかし、これだけでは判断として十分とはいえません。
事業承継税制の適用時に高い株価で納税猶予を受け、その後に業績が悪化して解散する場合には、特例措置のもとで一定の再計算・差額免除が認められる余地があります。ただし、再計算には要件があり、申請の手続も必要です。清算時点で株価が下がっているという事実だけで、当然に猶予税額が消えるわけではありません。
また、清算中には資産を換価していくため、帳簿価額と時価の差が実現することがあります。不動産、有価証券、保険積立金、貸付金、役員借入金、棚卸資産、設備などの処分損益が生じます。株価が下がっていく一方で、資産処分益や債務免除益が生じることもあるのです。
ですから、解散・清算を検討する際には、少なくとも次の数字を並べて確認しておく必要があります。
- 現在の猶予税額
- 解散時・清算時の株式価値
- 再計算後に納付すべき税額
- 免除される可能性のある差額
- 清算会社側の法人税・地方税
- 残余財産の見込額
- 後継者個人の所得税・住民税
- 金融機関借入・保証債務の処理
- 担保提供している株式・不動産の解除可能性
- 清算費用・専門家費用
ここまで整理して、ようやく「解散した場合に、後継者が実際にいくら負担することになるのか」が見えてきます。
解散を決める前に、事業再生・M&A・事業譲渡も検討する
事業承継税制を使っている会社が経営不振に陥ったとき、いきなり解散を決めてしまうのではなく、再生の可能性や第三者への承継の可能性もあわせて検討しておきたいところです。
倒産や廃業は、後継者個人の税務にとどまらず、従業員、取引先、金融機関、そして地域経済にも影響します。事業再生の実務では、会社が倒産すると従業員の失業や連鎖倒産、地域経済への悪影響が生じることから、事業の継続や再生には地域経済を守るという意味もある、と整理されます。
もちろん、再生の見込みがない会社を無理に続けるべきだ、という話ではありません。赤字が続き、資金繰りが限界に達し、後継者個人の生活や保証債務まで圧迫しているような場合には、早期に撤退することが合理的なこともあります。
大切なのは、解散を「最後に行き着く結果」としてではなく、ひとつの選択肢として検討することです。
- 事業再生は可能か
- 金融機関の条件変更で時間を確保できるか
- 不採算部門だけを撤退できるか
- 事業譲渡で従業員や取引先を引き継げるか
- M&Aによる第三者承継の余地があるか
- 清算した場合と売却した場合とで、納税猶予の負担はどう変わるか
- 会社を残す場合と完全に清算する場合とで、将来のリスクはどう違うか
事業承継税制は、本来、会社を続けていくための制度です。それなのに、制度を使ったことで撤退の判断が遅れ、損失が膨らみ、後継者個人の納税資金まで失われてしまっては、本末転倒です。
適用前に「廃業可能性」を考えておかないと、後継者の選択肢を狭めかねない
事業承継税制を適用する前に、将来の廃業可能性を検討しておくことは、決して制度に対する消極的な姿勢ではありません。むしろ、会社を守るために欠かせない確認だと考えています。
なかでも、次のような会社では、特に慎重な検討が求められます。
- 後継者がまだ経営者として十分に独立していない会社
- 主要取引先への依存度が高い会社
- 設備更新や人材確保に大きな投資が必要な会社
- 金融機関借入や経営者保証が重い会社
- 不動産・有価証券など、事業外資産が多い会社
- 株式評価額は高いものの、キャッシュフローが弱い会社
- 後継者以外の相続人との合意形成が十分でない会社
- 将来、M&A・事業譲渡・清算の可能性が現実的にある会社
こうした会社で、「納税猶予が受けられるから」という理由だけで制度を適用してしまうと、後継者は、代表者要件、株式の保有、届出の管理、取消リスク、猶予税額、担保の管理を、長期にわたって背負い続けることになります。
制度を使うべきかどうかは、現在の株価と税額だけで判断できるものではありません。10年後に会社を続けられる見通しがあるのか。後継者が経営改革を実行できる株主構成になっているのか。万一撤退する場合に、納税猶予の税額と清算資金をきちんと説明できるのか。ここまで含めて判断していくべきだと考えます。
解散・清算を検討する前に整理しておきたい資料
解散・清算を検討する際には、感覚的な判断ではなく、資料にもとづいた検討が必要になります。最低限、次の資料は整理しておきたいところです。
- 会社の直近3期から5期程度の決算書・申告書
- 月次試算表・資金繰り表
- 借入金明細・担保明細・経営者保証の内容
- 納税猶予税額の内訳
- 事業承継税制の認定書・申告書・継続届出書・年次報告書
- 株主名簿・定款・登記事項証明書
- 主要資産の明細と時価の見込み
- 不動産・有価証券・保険積立金・貸付金の評価資料
- 従業員数・雇用状況
- 主要取引先との契約・許認可・補助金関係
- 清算した場合の残余財産の見込み
- 事業譲渡・M&Aを検討した場合の概算対価
- 親族・株主・金融機関への説明資料
とりわけ、事業継続が困難な場合の差額免除や再計算を検討するときには、「なぜ事業の継続が困難になったのか」「いつから悪化したのか」「解散以外にどの選択肢を検討したのか」「後継者がどのような努力を重ねたのか」を、あとから説明できる資料がものをいいます。
解散・清算時の判断フロー
実務上は、次の順番で整理していくと、判断がしやすくなります。
1. 事業承継税制の種類を確認する
法人版か個人版か。一般措置か特例措置か。贈与税の猶予か相続税の猶予か。贈与税の猶予から相続税の猶予へ切り替わっているか。まずは制度の入口を確認します。
2. 5年以内か、5年経過後かを確認する
申告期限後5年以内であれば、解散による期限確定のリスクは特に重くなります。5年を経過していても、届出・保有・会社要件は引き続き残ります。
3. 解散なのか、倒産なのか、事業停止なのかを分ける
通常清算、特別清算、破産、事業譲渡後の会社存続、休眠状態。それぞれ制度上の扱いが異なります。
4. 事業継続困難事由を確認する
赤字、売上の減少、有利子負債、業界環境、取引先の喪失などを、資料で確認します。後継者の意思だけでは足りません。
5. 猶予税額と再計算額を試算する
承継時の税額、現時点の株式価値、解散時の価値、残余財産の見込み、差額免除の可能性を整理します。
6. 清算会社側の税務を確認する
法人税、地方法人税、法人事業税、法人住民税、消費税、資産処分損益、債務免除益、欠損金の利用可能性を確認します。
7. 後継者個人の納税資金を確認する
残余財産の分配額、所得税・住民税、納税猶予の確定税額、利子税、担保の解除、金融機関借入・保証債務の処理を確認します。
8. 報告・届出・申請を確認する
都道府県への報告、税務署への継続届出、差額免除の申請、担保の解除、清算関係の届出を、時系列で管理します。中小企業庁は、令和7年4月1日より一部の様式が改正されており、申請等の手続では最新の様式を利用するよう案内しています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類
解散・清算は、制度適用時から想定しておくべき論点
事業承継税制を適用する時点で、将来の解散・清算を念頭に置いておくことは、決して後ろ向きな話ではありません。
会社経営には、つねに不確実性がついて回ります。後継者がどれだけ努力を重ねても、業界の構造変化、取引先の再編、人材不足、金融環境の変化、親族関係の変化によって、会社を続けることがかえって合理的でなくなる場面はあり得ます。
制度の適用時に、将来の撤退可能性をまったく検討していなかった場合、後継者は次のような状態に置かれかねません。
- 会社を続けても、赤字が増えていく
- 会社を畳むと、猶予税額が確定する
- 清算しても、納税資金が残らない
- 金融機関への説明ができない
- 親族株主から責任を問われる
- 届出の漏れにより、本来使えたかもしれない減免を失う
- 結果として、経営判断も税務判断も後手に回る
事業承継税制は、税負担を軽減する制度であると同時に、後継者の将来の経営判断に一定の制約を課す制度でもあります。
だからこそ、制度を使う前に、「使えばどれだけ税額が猶予されるか」だけでなく、「使ったあとに解散・清算・廃業したら、何が起きるのか」まで確認しておきたいのです。
まとめ
事業承継税制は、会社を次の世代へつないでいくための、重要な制度です。しかし、会社を続けられなくなった場合に、納税猶予がそのまま免除されるとは限りません。
解散は、会社法上の清算手続の入口であると同時に、事業承継税制の観点からは、猶予期限の確定・取消・再計算・免除の判断が必要になる、重大な場面でもあります。
特に押さえておきたいのは、次の点です。
- 解散・清算・廃業を混同しないこと
- 5年以内か、5年経過後かを確認すること
- 倒産と自主廃業を分けて考えること
- 事業継続困難事由を、資料で説明できるようにしておくこと
- 猶予税額と残余財産を、同時に試算すること
- 会社側の清算税務と後継者個人の税務を、分けて確認すること
- 届出・報告・免除申請を、期限管理すること
- 制度の適用前から、撤退可能性を判断材料に入れておくこと
納税猶予は、会社を続けるという前提のもとで、大きな効果を発揮します。その一方で、将来の撤退可能性が高い会社では、制度を適用すること自体が、後継者の選択肢を狭めてしまうこともあります。
「今、使えるか」だけではなく、「将来、維持できるか」「撤退するときにも説明できるか」。この視点こそが、解散・清算・廃業のリスクを踏まえた事業承継税制の判断には欠かせません。
重要事項の振り返り
| 論点 | 重要な考え方 | 確認すべき資料・判断事項 |
|---|---|---|
| 解散 | 会社が清算手続に入る状態であり、法人格が直ちに消えるわけではない | 株主総会決議、解散登記、清算人、財産目録、貸借対照表 |
| 清算 | 債権回収、資産換価、債務弁済、残余財産分配を行う手続 | 清算貸借対照表、債権者公告、残余財産見込、決算報告 |
| 廃業 | 法律用語として一義的ではなく、事業停止・休業・解散・清算を分けて確認する必要がある | 事業停止日、売上状況、法人存続の有無、資産管理会社化の有無 |
| 5年以内の解散 | 事業継続期間中の要件逸脱として、猶予税額の納付リスクが大きい | 申告期限、認定有効期間、年次報告、代表者要件、株式保有状況 |
| 5年経過後の解散 | 特例措置では、事業継続困難時の再計算・差額免除を検討できる場合がある | 経営悪化資料、株価試算、差額免除申請、清算見込 |
| 倒産 | 破産・特別清算等では、免除事由となる場面がある | 法的整理の種類、開始決定・命令、債務超過資料 |
| 自主廃業 | 倒産免除と同じではなく、通常は期限確定・再計算の問題として整理する | 解散方針、清算計画、残余財産、納税資金 |
| 残余財産 | 後継者の納税資金になる可能性があるが、債務弁済後でなければ分配できない | 資産換価額、債務弁済額、清算費用、株主分配額 |
| 会社側の清算税務 | 清算中も、法人税・地方税の申告が必要になる | 清算事業年度、資産処分損益、欠損金、消費税 |
| 後継者個人の税務 | 猶予税額だけでなく、みなし配当・譲渡所得・住民税も確認する | 残余財産分配、株式取得価額、所得税・住民税試算 |
| 届出・報告 | 提出漏れにより、納税猶予の期限が確定することがある | 年次報告、継続届出書、差額免除申請、最新様式 |
| 適用前判断 | 将来の廃業可能性が高い会社では、制度の適用自体を慎重に判断する | 後継者体制、事業見通し、M&A可能性、撤退シナリオ |
事業承継税制を適用している会社で、解散・清算・廃業を検討する場合、税務上の判断は「会社を畳むかどうか」だけでは完結しません。猶予税額、清算価値、残余財産、金融機関対応、届出期限、後継者個人の納税資金まで、一体として整理していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の適用判断にとどまらず、適用後の解散・清算・廃業リスク、猶予税額の再計算、納税資金、会社財務、関係者への説明資料の整理まで含めて、検討をご支援しています。
「制度を使ったあとに、会社を畳む可能性がある」「後継者が続けていけるか不安がある」「解散した場合の猶予税額を試算したい」。このようなお悩みがありましたら、当事務所ホームページのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。