事業承継税制を適用したからといって、会社の経営が止まるわけではありません。
後継者が承継した後で、グループ会社を整理したい、不採算事業を切り離したい、持株会社体制へ移行したい、兄弟会社を統合したい、少数株主を整理したい、事業部門を別会社に分けたい——こうした構想を持つことは、ごく自然なことです。
そこで実務上の論点になるのが、事業承継税制の納税猶予を受けた後に、合併・会社分割・株式交換・株式移転といった組織再編を行えるのか、という点です。
結論から申し上げると、組織再編が一切できなくなるわけではありません。一定の要件を満たし、必要な報告・確認手続を踏めば、認定や納税猶予を継続できる場面はあります。
ただし、ここには注意が必要です。会社法上は有効に実行できる組織再編であっても、また法人税法上「適格組織再編」に該当する組織再編であっても、それだけで事業承継税制上の納税猶予が当然に続くわけではないのです。
事業承継税制は、非上場会社の株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもとで納税を猶予し、後継者の死亡等によって免除する制度です。特例措置では、対象株式数の上限撤廃や猶予割合100%といった大きな効果がある一方、その前提として、後継者が代表者として経営を担い、対象株式等を継続して保有するなどの管理が求められます。
出典:国税庁|No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)
本稿では、法人版事業承継税制を中心に、適用後に合併・会社分割・株式交換・株式移転等を行う場合、納税猶予にどのような影響が及ぶのかを整理します。なお、組織再編税制そのものの詳細計算、個別スキームの設計、M&Aプロセス、契約条件、デューデリジェンス、PMIといった論点は、本稿では扱いません。
「会社法」「法人税法」「事業承継税制」を分けて見る
組織再編を検討する場面では、実務上、複数の制度が同時に絡んできます。まずは、この三つを切り分けて捉えることが出発点になります。
第一に、会社法上の手続です。合併、会社分割、株式交換、株式移転、組織変更などを、適法に進める必要があります。会社法は、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付等についてそれぞれ手続を定めており、株主総会の承認、反対株主の株式買取請求、債権者保護手続、事前・事後開示、登記などが論点となります。
第二に、法人税法上の取扱いです。その組織再編が適格組織再編に該当するかどうかを確認します。適格合併、適格分割、適格株式交換等、適格株式移転のいずれに当たるかによって、移転資産・負債の譲渡損益、株主側の譲渡損益やみなし配当、子会社資産の評価損益といった課税関係が変わってきます。
そして第三に、事業承継税制上の取扱いです。納税猶予が継続するのか、認定が取り消されるのか、猶予税額の全部または一部について納付が必要になるのかを確認します。
この三つは、似ているようでいて、実際には別の判断です。
たとえば法人税法上の適格要件を満たしていても、後継者が再編後の会社で代表者でなくなる、議決権要件を満たせなくなる、株式以外の対価が交付される、資産保有型会社・資産運用型会社に該当する、必要な報告を行わない——こうした事情があれば、事業承継税制上の問題が生じます。
逆に、事業承継税制上は認定の承継が可能な場合であっても、法人税法上の適格要件、会社法上の少数株主対応、債権者保護、許認可の承継、金融機関への説明などは、別途検討しなければなりません。
組織再編は、制度ごとの要件が重なり合っているように見えて、確認すべき目的はそれぞれ異なるのです。
認定取消事由としての組織再編
組織再編のなかには、事業承継税制の認定取消事由として整理されているものがあります。具体的には、合併によって会社が消滅した場合、株式交換・株式移転によって完全子会社となった場合、組織変更があった場合などです。
ただし、合併については第5章第1節に掲げる場合、株式交換・株式移転については第5章第2節に掲げる場合を除くとされており、一定の要件を満たして報告・確認を受けた場合には、認定を承継できる余地が残されています。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第4章 認定の取消しについて
つまり、組織再編があれば常に取消しになるわけではありません。どの会社が消滅するのか、どの会社が親会社になるのか、どの会社が認定を承継するのか、後継者がどの会社で代表者・議決権を維持するのかによって、結論は変わってきます。
法人版事業承継税制における組織再編成の確定事由も、特例経営承継期間中か経過後か、合併・株式交換等か、分社型分割か分割型分割か、対価が株式等のみかどうかによって分岐していきます。
ここで強調しておきたいのは、組織再編を「名称」だけで判断してはいけないということです。
同じ合併でも、認定会社が消滅会社になるのか、存続会社になるのかで違います。同じ株式交換でも、認定会社が完全親会社になるのか、完全子会社になるのかで違います。同じ会社分割でも、分社型分割なのか、分割型分割なのかで違ってくるのです。
合併を行う場合の基本整理
合併には、吸収合併と新設合併があります。
吸収合併は、当事会社の一部が消滅し、消滅会社の権利義務の全部が清算手続を経ずに存続会社へ移転するものです。一方の新設合併は、当事会社の全部が消滅し、権利義務の全部が新設会社へ移転します。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第5章 認定後の組織再編について
事業承継税制上、まず確認すべきなのは、認定を受けている会社が合併によって消滅するかどうかです。
認定会社が吸収合併消滅会社、または新設合併消滅会社となる場合、原則として認定の効力は失われます。
ただし、吸収合併存続会社または新設合併設立会社が、合併の効力発生日等に一定の要件に該当することについて都道府県知事の確認を受けたときは、その会社が認定会社たる地位を承継したものとみなされます。合併によって認定会社が消滅した場合に一律で認定を失わせてしまうと、合理的な企業行動をかえって妨げかねないため、こうした余地が設けられているのです。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第5章 認定後の組織再編について
これに対して、認定会社が吸収合併存続会社となる場合は、認定会社自体が存続します。したがって、合併によって当然に認定が消滅する構造ではありません。
もっとも、その合併をきっかけに、後継者が代表者を退任する、同族過半数要件を満たせなくなる、同族内筆頭要件を満たせなくなる、資産保有型会社・資産運用型会社に該当する、といった別の取消事由が生じないかは、あらためて確認する必要があります。
合併後に認定を承継するための主な要件
認定会社が合併によって消滅する場合、存続会社または新設会社が認定を承継するには、「同じグループ内の合併だから問題ない」という程度の判断では足りません。
合併後に認定を承継するための要件として、次のようなものが挙げられます。
- 後継者が吸収合併存続会社等の代表者であること
- 代表権に制限がないこと
- 株式等以外の財産が交付されていないこと
- 後継者と同族関係者で総議決権数の50%超を有し、かつ後継者が同族内で最も多くの議決権を有すること
- 存続会社等が上場会社等・風俗営業会社・資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないこと
- 特定特別子会社が風俗営業会社に該当しないこと
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第5章 認定後の組織再編について
このうち、特に注意していただきたいのは次の三点です。
ひとつめは、後継者が再編後の会社でも代表者でなければならない点です。合併後の会社で後継者が代表者でなくなる場合、あるいは代表権が制限される場合には、認定承継の要件を満たさない可能性があります。
ふたつめは、合併対価が原則として株式等である必要がある点です。合併比率の調整のための金銭や、後継者以外の反対株主の株式買取請求に対する対価として交付される金銭などには一定の除外がありますが、株式等以外の財産が広く交付される場合には、認定承継ができなくなるおそれがあります。
みっつめは、合併後の会社で後継者の議決権支配が維持される必要がある点です。合併によって相手会社の株主が加わった結果、後継者と同族関係者の議決権が50%以下になる、あるいは後継者が同族内筆頭でなくなる場合には、事業承継税制の前提そのものが崩れてしまいます。
合併は、経営統合や管理部門の統合には有効な手法です。しかし、事業承継税制の適用後は、後継者の代表権・議決権・株式対価・会社要件を同時に維持できるかどうかが、何よりも重要になります。
株式交換・株式移転を行う場合の基本整理
株式交換と株式移転は、会社を完全子会社化するための組織再編です。
株式交換は、既存の株式会社または合同会社が完全親会社となるもの、株式移転は、新設される株式会社が完全親会社となるものです。株式交換では、認定会社が完全親会社となる場合と完全子会社となる場合の双方があり得ますが、株式移転では、認定会社は必ず完全子会社となります。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第5章 認定後の組織再編について
この点は、持株会社化を検討する場面で、きわめて重要になります。
事業承継税制の適用後に、認定会社を株式移転で持株会社の完全子会社にすると、認定会社の株式はすべて新設の持株会社が保有することになります。後継者が直接保有していた納税猶予対象株式は、持株会社の株式へと置き換わる構造になるのです。
株式交換または株式移転によって認定会社が完全親会社の完全子会社となった場合、原則として認定は取り消されます。
ただし、株式交換完全親会社または株式移転設立完全親会社が、効力発生日等に一定の要件を満たすことについて都道府県知事の確認を受けたときは、その親会社が認定会社たる地位を承継したものとみなされます。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第5章 認定後の組織再編について
つまり、株式交換・株式移転による持株会社化は、制度上できないわけではありません。とはいえ、何もしなくても当然に納税猶予が続くわけではなく、認定承継の要件と手続をきちんと満たす必要があるのです。
株式交換・株式移転で認定を承継するための主な要件
株式交換・株式移転によって認定会社が完全子会社になる場合、認定を承継するためには、親会社側で厳格な要件を確認しなければなりません。
主な要件は次のとおりです。
- 後継者が株式交換完全親会社等および認定会社の代表者であること
- 代表権を制限されていないこと
- 株式交換等の対価として株式等以外の財産を交付していないこと
- 後継者と同族関係者で完全親会社等の総議決権数の50%超を有し、かつ後継者が同族内で最も多くの議決権を有すること
- 完全親会社等が上場会社等・風俗営業会社・資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないこと
- 特定特別子会社が風俗営業会社に該当しないこと
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第5章 認定後の組織再編について
実務上、特につまずきやすいのは、後継者が「親会社」と「完全子会社」の双方で代表者である必要がある点です。
持株会社化を行うと、後継者を持株会社の代表者に据え、事業会社には別の役員を代表者として置く、という設計が考えられます。しかし事業承継税制上は、認定承継のために、後継者が親会社だけでなく、完全子会社となった認定会社の代表者であることも求められる場面があるのです。
また、株式交換・株式移転では、交換比率、端数処理、反対株主の株式買取請求、少数株主対応といった問題が生じます。比率調整や株式買取請求に伴う金銭については一定の取扱いがありますが、組織再編の全体として株式等以外の財産が交付される場合には、認定承継の可否を慎重に確かめる必要があります。
株式交換・株式移転は、持株会社化、株主構成の整理、兄弟会社の統合、少数株主対策などに活用されることがあります。しかし事業承継税制の適用後は、税務上の出口をかえって狭めてしまう可能性があることを、念頭に置いておきたいところです。
認定会社が完全親会社になる株式交換はどう考えるか
株式交換では、認定会社が完全子会社になる場合だけでなく、認定会社が完全親会社になる場合もあります。
認定会社が完全親会社になる場合、認定会社自体の株主構成は変わらず、認定会社が他社の株式を取得して完全子会社化する、という構造です。この場合、認定会社が他社の完全子会社になるわけではないため、株式交換等報告による認定承継の問題とは、別の整理になります。
ただし、注意すべき点は残ります。
完全子会社化した会社の株式を保有することで、認定会社の資産構成が変わります。認定会社が資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないか、完全子会社が特別子会社・特定特別子会社に該当する場合に要件を満たすか、グループ全体の事業実態をきちんと説明できるか——こうした点を確認しておく必要があります。
さらに、子会社化した後にグループ再編を続けて行う場合には、最初の株式交換だけでなく、その後の合併、会社分割、株式移転、事業譲渡まで含めて、納税猶予の継続に影響しないかを見ておかなければなりません。
会社分割は「分社型分割」と「分割型分割」で大きく異なる
会社分割は、事業や資産を別会社へ移すために使われる組織再編です。承継後の後継者が、不採算部門を切り離す、事業ごとに責任を分ける、後継者ごとに会社を分ける、持株会社体制を整える、といった場面で検討されます。
ただし、事業承継税制の適用後は、会社分割の種類によって、納税猶予への影響が大きく変わってきます。
大きく分けると、分社型分割と分割型分割があります。分社型分割は、分割会社が分割承継会社の株式等を保有する形です。分割型分割は、分割承継会社の株式等を分割会社の株主に配当する形です。
事業承継税制上は、対象会社が会社分割を行っても、分割承継会社の株式等を配当財産とする剰余金の配当を伴わない分社型分割であれば、一定期間内・一定期間経過後のいずれにおいても確定事由には該当しないと整理されています。
一方、分割型分割の場合は、一定期間内であれば猶予税額の全額納付、一定期間経過後であれば、会社分割に際して配当された分割承継会社株式等の価額に対応する部分の納付が必要になります。
この違いは、実務上きわめて重要です。
同じ「会社分割」でも、分社型分割であれば納税猶予が直ちに確定しない可能性がある一方、分割型分割では、納税猶予の対象株式の一部を、実質的に別の株式として株主へ移すことになります。そのため、猶予税額の確定につながり得るのです。
実際、納税猶予対象株式を譲渡した場合の取消事由には、吸収分割承継会社等の株式等を配当財産とする剰余金の配当があった場合が含まれるとされています。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第4章 認定の取消しについて
したがって会社分割を検討する際には、法人税法上の適格分割かどうかだけでなく、分割承継会社の株式が誰に帰属するのか、納税猶予対象株式の価値がどのように動くのか、後継者の保有株式・議決権・担保にどのような影響が出るのかを、あわせて確認する必要があります。
組織変更にも注意が必要
組織変更とは、株式会社から持分会社へ、または持分会社から株式会社へと、会社の形態を変更することです。
組織変更があった場合で、認定承継会社の株式等以外の財産の交付があったときは、認定取消事由として整理されています。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第4章 認定の取消しについて
組織変更は、会社の事業そのものを売却する行為ではありません。しかし、株式や持分の性質が変わり、社員の権利、議決権、持分の払戻し、代表権、会社法上の規律が変わります。
事業承継税制は、後継者が対象株式等を継続して保有し、会社の経営権を維持することを前提とした制度です。組織変更によって財産の交付や権利内容の変化が生じる場合には、慎重に確認しておく必要があります。
「適格組織再編なら納税猶予も大丈夫」とは言えない
組織再編のご相談でよくある誤解は、法人税法上の適格組織再編に該当すれば、事業承継税制上も問題ないだろう、と考えてしまうことです。
しかし、両者は目的が異なります。
法人税法上の適格組織再編は、移転資産・負債の譲渡損益、株主課税、課税の繰延べを判断するための仕組みです。これに対して事業承継税制上の認定承継や納税猶予の継続は、後継者の代表者としての地位、議決権の支配、対象株式等の継続保有、認定会社の事業実態、報告手続などを確認する仕組みです。
ですから、法人税法上の適格要件を満たしていても、次のような場合には、事業承継税制上のリスクが残ります。
- 後継者が再編後の承継会社・親会社・完全子会社の代表者でない
- 代表権が制限されている
- 後継者と同族関係者で議決権50%超を維持できない
- 後継者が同族内筆頭でなくなる
- 対価に株式等以外の財産が含まれる
- 再編後の会社が資産保有型会社・資産運用型会社に該当する
- 特定特別子会社が風俗営業会社に該当する
- 合併報告書、株式交換等報告書、継続届出書等の提出が漏れる
- 担保や納税猶予対象株式の管理が、再編後に整理されていない
その一方で、法人税法上の適格性ばかりに目を向けていると、会社法上の反対株主対応、債権者保護手続、許認可の承継、金融機関への説明、補助金・助成金・契約上のチェンジオブコントロール条項といった点を、見落としてしまうこともあります。
組織再編税務の実務では、失敗の多くが、高度な理論以前の確認漏れ、手続漏れ、レビュー不足から生じます。組織再編は、税務上も会社法上も、細かな前提条件をひとつずつ確認していくことが大切なのです。
会社法上の手続も軽視できない
事業承継税制の納税猶予に関心が向くと、会社法上の手続が後回しになりがちです。しかし組織再編は、会社の根幹に関わる行為であり、株主、債権者、従業員、取引先、金融機関、許認可行政にまで影響が及びます。
組織再編にあたっては、株主総会の承認、株主への通知・公告、反対株主の株式買取請求、債権者への通知・公告、債権者異議手続、事前開示・事後開示、登記といった手続が問題になります。事業承継の方法として組織再編を選ぶのであれば、これらの法定手続を確実に履践し、手続期間を踏まえたスケジュール管理を行う必要があります。
とりわけ会社分割では、労働者保護手続、許認可の承継・再取得、契約の移転、債務の承継、金融機関の同意などが重要になります。せっかく組織再編を行っても、承継後の会社が必要な許認可を取得できず、事業を継続できないとなれば、事業承継税制の制度趣旨からも問題が生じかねません。
合併・会社分割・株式交換・株式移転は、税務だけで完結するものではありません。後継者が再編後にどの会社をどの立場で経営し、どの会社に収益・資産・債務・従業員・許認可が残るのかを、会社法と税務の両面から整理しておく必要があります。
報告手続を忘れると、制度の維持が崩れる
事業承継税制の適用後に組織再編を行う場合には、都道府県への報告と、税務署への継続届出の両方を意識しておかなければなりません。
認定を受けた後は、都道府県庁へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を提出する必要があります。具体的には、税務申告後5年以内は毎年、6年目以後は税務署にのみ3年に一度、継続届出書を提出します。
また、令和7年4月1日より一部の様式が改正されており、申請等の手続の際には最新の様式を利用する必要があります。
合併によって認定を承継する場合には合併報告書を、株式交換・株式移転によって認定を承継する場合には株式交換等報告書を使用する場面があります。合併や株式交換等について都道府県知事の確認を受けた場合、再編後の会社が認定会社たる地位を承継したものとみなされ、その後も報告義務や取消事由の管理が続いていきます。
出典:中小企業庁|経営承継円滑化法申請マニュアル 第5章 認定後の組織再編について
組織再編は効力発生日が明確に定まるため、報告期限や添付書類の管理が重要になります。合併契約書、株式交換契約書、株式移転計画書、株主名簿、登記事項証明書、決算関係書類、上場会社等非該当・風俗営業会社非該当の誓約、従業員数証明書など、再編の類型に応じてさまざまな資料が必要になることがあります。
実行した後で「報告が必要だった」と気づいても、手続期限や添付資料の整備が間に合わない可能性があります。組織再編を検討する段階で、都道府県の手続と税務署の手続を分けて確認しておくことをお勧めします。
5年以内か、5年経過後かで影響は変わる
事業承継税制では、申告期限後5年間の事業継続期間中か、その経過後かによって、取消し・納付リスクの性質が変わってきます。
認定の有効期限は、後継者ごとに、最初に事業承継税制の適用を受ける贈与税または相続税の申告期限の翌日から、5年を経過する日までとされています。この期間中は認定ごとに年次報告が必要であり、事業継続期間中に他社へ吸収合併された場合などにも、一定の要件のもとで合併先の会社に認定を承継できるとされています。
事業継続期間中は、後継者の代表者要件、議決権要件、株式保有、会社要件が、とりわけ重要になります。合併・株式交換・株式移転を行った後も、これらを維持できなければ、納税猶予の期限が確定してしまう可能性があります。
5年経過後は一部の要件が緩和されます。とはいえ、組織再編による一部納付、免除、再計算、届出・報告、資産管理会社化、対象株式の譲渡といった問題は、なお残ります。特に分割型分割や株式交換等については、5年を経過した後であっても「自由にできる」とは限りません。
したがって組織再編を検討するときは、まず現時点が事業継続期間中なのか経過後なのかを確認し、そのうえで、再編の類型ごとに全部確定・一部確定・猶予継続・免除の可能性を整理していく必要があります。
事業承継税制の適用前に、将来の再編可能性を検討すべき理由
事業承継税制を適用した後に組織再編を行うことは、制度上、可能な余地があります。
しかし実務の感覚としては、適用前の段階で、将来の再編可能性まで見ておくことをお勧めします。
たとえば、将来持株会社化する可能性が高い会社であれば、事業承継税制の適用前に持株会社化を行うべきか、それとも適用後に株式移転を行うべきか——どちらが後継者の議決権管理・納税猶予・株価評価・資産管理会社判定にとって適切かを、比較しておく必要があります。
不採算事業を切り離す可能性が高い会社であれば、承継前に会社分割を行ってから株式を承継する方がよいのか、承継後に分社型分割で整理できるのか、分割型分割が必要になる可能性はないのか、といった点を検討しておくべきです。
複数の後継者がいる場合には、株式を複数の後継者に承継させた後で会社分割を行うと、議決権、経営権、遺留分、猶予税額、分割会社・承継会社の株式評価が複雑に絡み合います。税務上のメリットだけでなく、後から説明のつく承継設計になっているかどうかが問われます。
事業承継税制は、承継の時点だけでなく、その後の資本政策や組織再編の自由度にまで影響します。将来の再編可能性を検討しないまま納税猶予を選択してしまうと、かえって後継者の経営改革を縛ってしまうことがあるのです。
実行前に確認すべき判断軸
合併・会社分割・株式交換・株式移転等を実行する前には、少なくとも、次の観点を整理しておく必要があります。
1. どの会社が認定会社なのか
まず、事業承継税制の認定を受けている会社がどれなのかを確認します。複数の会社、持株会社、兄弟会社、子会社がある場合は、どの会社の株式について納税猶予を受けているのかを明確にしておきます。
2. 認定会社は再編後に存続するのか、消滅するのか
合併で認定会社が消滅する場合、認定の効力消滅と承継確認が問題になります。認定会社が存続会社となる場合でも、他の取消事由に該当しないかを確認します。
3. 認定会社は完全子会社になるのか
株式交換・株式移転で認定会社が完全子会社になる場合、原則として認定取消しの問題が生じます。完全親会社が認定を承継できるか、後継者が親会社・子会社双方の代表者要件を満たせるかを確認します。
4. 会社分割は分社型か、分割型か
分社型分割であれば確定事由に該当しない可能性がありますが、分割型分割では全部または一部の納付リスクがあります。分割承継会社の株式が誰に帰属するかを確認します。
5. 対価に株式等以外の財産が含まれるか
合併、株式交換、株式移転では、株式等以外の財産の交付が認定承継の妨げになることがあります。比率調整金や反対株主の買取請求への対応は、別途整理します。
6. 後継者の代表者要件は維持されるか
合併後の存続会社、新設会社、完全親会社、完全子会社で、後継者が代表者となる必要がある場面があります。代表権の制限についても確認します。
7. 議決権要件は維持されるか
再編後の会社で、後継者と同族関係者が総議決権数の50%超を持ち、後継者が同族内筆頭であり続けるかを確認します。
8. 再編後の会社が資産管理会社化しないか
持株会社化や子会社株式の保有によって、資産保有型会社・資産運用型会社の判定に影響することがあります。事業実態、特定資産、総収入を確認します。
9. 必要な報告・届出を期限内に行えるか
合併報告書、株式交換等報告書、随時報告、年次報告、継続届出書、添付書類を確認します。最新様式の利用も忘れてはいけません。
10. 取消し・一部納付時の資金繰りを試算しているか
仮に猶予税額の全部または一部が確定した場合、後継者個人が納付できるか、会社財務にどのような影響が出るか、担保や金融機関への説明がどうなるかを確認します。
組織再編は「できるか」ではなく「やるべきか」で判断する
事業承継税制の適用後に組織再編を行う場合、最初の問いは「制度上できるか」です。
しかし、最終的に問われるのは「やるべきか」です。
納税猶予を維持するために、後継者を形式的に複数の会社の代表者へ置くことが、経営上、本当に合理的なのか。議決権要件を維持するために、資本政策が不自然になっていないか。持株会社化によって、金融機関や取引先への説明が複雑になっていないか。分社化によって、許認可、従業員、契約、債務、補助金の承継に支障が出ないか。そして組織再編によって、将来の売却・廃業・再生といった選択肢を、かえって狭めてしまわないか。
こうした点を整理しないまま、税制の要件だけを満たそうとすると、後継者の経営判断に無理が生じてしまいます。
事業承継税制は、会社を守るための制度であって、会社を動かしにくくするための制度ではありません。しかし、いったん制度を使った以上は、組織再編に踏み出す前に、税務・会社法・財務・株主関係・届出手続をひとつにつなげて確認しておく必要があるのです。
まとめ
合併・会社分割・株式交換・株式移転等は、承継後の会社を整えていくための有力な手段です。
その一方で、事業承継税制の納税猶予を受けている会社では、組織再編が認定の取消し、猶予税額の全部納付、一部納付、免除、認定承継、報告手続に、そのまま直結します。
会社法上できるか。法人税法上適格か。事業承継税制上、納税猶予を維持できるか。後継者の代表権・議決権を再編後も維持できるか。将来の経営判断を不自然に狭めないか。後から説明できる資料と手続の履歴を残せるか。
この順番で整理していくことが大切です。
事業承継税制を使う前に、将来の組織再編の可能性を見ておくこと。すでに制度を適用している場合には、組織再編の基本方針を決める前に、納税猶予への影響を確認しておくこと。これが、後継者の経営判断を守るうえで欠かせません。
重要事項の振り返り
| 論点 | 納税猶予への影響 | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 合併で認定会社が消滅する場合 | 原則として認定の効力が失われるが、一定要件で承継可能 | 存続会社・新設会社が認定を承継できるか確認 |
| 合併後の代表者要件 | 後継者が再編後会社の代表者であることが重要 | 代表権制限の有無も確認 |
| 合併対価 | 株式等以外の財産交付があると認定承継に影響 | 合併交付金・反対株主買取請求への対応を区別 |
| 株式交換・株式移転 | 認定会社が完全子会社になると原則取消リスク | 完全親会社への認定承継要件を確認 |
| 持株会社化 | 制度上可能な場合もあるが要件管理が複雑 | 後継者が親会社・子会社双方で代表者か確認 |
| 分社型分割 | 一般に確定事由に該当しない可能性 | 分割承継会社株式を分割会社が保有するか確認 |
| 分割型分割 | 5年内は全額、5年経過後は一部納付リスク | 分割承継会社株式の配当・帰属を確認 |
| 組織変更 | 株式等以外の財産交付があると取消リスク | 持分・議決権・財産交付の有無を確認 |
| 法人税法上の適格性 | 課税繰延べの問題であり、納税猶予継続とは別 | 適格要件と事業承継税制要件を別々に確認 |
| 報告・届出 | 提出漏れにより制度維持が崩れる可能性 | 合併報告書、株式交換等報告書、継続届出を確認 |
| 再編後の会社要件 | 資産保有型会社・資産運用型会社等に注意 | 特定資産、総収入、特定特別子会社を確認 |
| 将来の経営判断 | 納税猶予が再編・売却・廃業の制約になる可能性 | 制度適用前から再編可能性を検討 |
事業承継税制を適用している会社で、合併、会社分割、株式交換、株式移転、持株会社化、グループ再編を検討される場合は、実行した後ではなく、基本方針を決める前に、納税猶予への影響を確認しておくことが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の適用判断にとどまらず、適用後の組織再編、株主構成、議決権管理、猶予税額、届出管理、会社財務への影響まで含めて、数字と事実に基づく整理を支援しております。
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