IAS第12号「法人所得税」を実務で扱うとき、最初につまずきやすいのは、税金の計算そのものではありません。むしろ「何を一時差異として捉えるのか」という、入口の判断のほうです。
法人所得税会計は、税務申告書上の納税額を財務諸表へ転記するだけの作業ではありません。IFRSでは、財政状態計算書に認識された資産・負債の帳簿価額が、将来どのように回収または決済され、そのとき税務上どのような影響が生じるのかを考えます。
ですから、IAS第12号の中核に置かれるのは、次の3つです。
- 資産または負債の帳簿価額
- その資産または負債の税務基準額
- 両者の差額としての一時差異
この一時差異を正しく識別できないと、その先が揺らぎます。繰延税金資産・繰延税金負債の認識、税率の適用、損益・OCI・資本への配分、注記、そして監査対応まで、すべてが不安定になっていきます。
本稿では、IAS第12号における一時差異、税務基準額、繰延税金の認識を取り上げます。ねらいは定義の解説そのものではなく、実務でどのように論点を切り分け、説明のできる判断に落とし込んでいくか、という視点で整理することにあります。
IAS第12号は「資産負債アプローチ」で考える
IAS第12号では、一時差異は、財政状態計算書上の資産または負債の帳簿価額と、その税務基準額との差額として定義されます。税務基準額とは、税務目的でその資産または負債に帰属する金額のことです。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
ここで押さえておきたいのは、IAS第12号が損益計算書上の収益・費用の帰属時期だけを起点にしていない、という点です。出発点は、あくまで財政状態計算書に認識されている資産・負債にあります。
日本基準の税効果会計も、企業会計上の資産または負債の額と、課税所得計算上の資産または負債の額との相違に着目する資産負債法を採用しています。繰延法ではなく資産負債法に立っているという点で、考え方の骨格は共通しています。
もっとも、IFRS実務では、日本基準で用いている一時差異の整理をそのまま持ち込むだけでは足りません。IFRSには、企業結合、公正価値測定、リース、外貨換算、株式報酬、在外子会社投資など、会計上の帳簿価額が税務上の基礎と大きく乖離する場面が数多くあるためです。
そこで、IAS第12号では、おおむね次の順序で考えていくことになります。
- IFRS上の資産・負債の帳簿価額を確定する
- その資産・負債について、税務上どの金額が将来の控除または課税に関係するのかを確認する
- 両者の差額が、将来の課税所得を増やすのか、減らすのかを判断する
- その差異について、繰延税金資産または繰延税金負債を認識すべきかを検討する
言い換えれば、一時差異の検討は、税務申告調整の一覧表をつくる作業ではありません。財務諸表上の資産・負債が、将来の税金にどう影響していくのかを整理する作業なのです。
税務基準額とは何か
税務基準額は、IAS第12号を理解するうえで最も重要な概念のひとつです。
資産の税務基準額とは、その資産の帳簿価額を回収するときに、将来の課税所得から税務上控除される金額を指します。もし、その資産から生じる経済的便益が課税されないのであれば、資産の税務基準額は、通常その帳簿価額と同額になります。IAS第12号は、資産の税務基準額を、企業が資産の帳簿価額を回収するときに流入する課税対象の経済的便益に対して、税務上控除される金額として説明しています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
一方、負債の税務基準額は、負債の帳簿価額から、その負債について将来税務上控除される金額を差し引いた金額です。たとえば前受収益のように、会計上は負債として残っていても税務上はすでに課税されている場合には、将来課税されない部分を考慮して税務基準額を判断します。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
この考え方は、実務ではとても効いてきます。税務基準額は、必ずしも「税務上の帳簿価額」という名称で管理されている金額と一致するとは限らないからです。税法上の未償却残高、損金算入予定額、益金算入予定額、課税済み金額、将来課税されない金額などを踏まえたうえで、IAS第12号上の税務基準額として組み立て直す必要があります。
とりわけ、次のような項目では、税務基準額の判断を誤りやすくなります。
- 会計上は資産計上されているが、税務上はすでに損金算入されている支出
- 会計上は負債計上されているが、税務上は支払時まで損金算入されない引当・未払項目
- 会計上は公正価値で測定されるが、税務上は取得原価または別の基礎で扱われる金融商品・投資不動産
- 会計上は企業結合で公正価値評価されるが、税務上は簿価引継ぎまたは別の税務基準額となる資産・負債
- 会計上はその他の包括利益に認識されるが、税務上は課税所得に反映されていない評価差額
- 会計上は連結修正で認識されるが、税務申告上は個別会社単位で処理される項目
ですから、税務基準額の検討では、会計残高と税務申告書の調整額を照合するだけでは十分ではありません。「この資産を回収したとき、あるいはこの負債を決済したとき、将来の課税所得にどのような影響が生じるのか」を確認する姿勢が欠かせません。
一時差異は「将来加算」と「将来減算」に分かれる
一時差異は、将来加算一時差異と将来減算一時差異の2つに分かれます。
将来加算一時差異とは、資産の帳簿価額が回収される、または負債の帳簿価額が決済される将来期間において、課税所得を増加させる差異です。IAS第12号では、これを taxable temporary differences として定義しています。
これに対して将来減算一時差異は、将来期間において、課税所得の計算上控除される金額を生じさせる差異です。IAS第12号では、これを deductible temporary differences として定義しています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
実務上は、次のように整理すると理解しやすくなります。
| 比較関係 | 将来の税務影響 | 一時差異の性質 | 通常生じる繰延税金 |
|---|---|---|---|
| 資産の帳簿価額が税務基準額を上回る | 将来課税所得が増える | 将来加算一時差異 | 繰延税金負債 |
| 資産の帳簿価額が税務基準額を下回る | 将来課税所得が減る | 将来減算一時差異 | 繰延税金資産 |
| 負債の帳簿価額が税務基準額を上回る | 将来課税所得が減る | 将来減算一時差異 | 繰延税金資産 |
| 負債の帳簿価額が税務基準額を下回る | 将来課税所得が増える | 将来加算一時差異 | 繰延税金負債 |
ただし、この表だけで機械的に結論を出してはいけません。税務上の損金算入時期、益金算入時期、非課税・損金不算入の性質、税率、課税主体、税務当局、回収方法、連結・個別の単位。こうした要素によって、結論が変わることがあるからです。
たとえば、会計上は負債が存在していても、将来の支払時に税務上損金算入されないのであれば、将来減算効果は生じません。この場合、形式的には負債の帳簿価額と税務基準額に差があるように見えても、繰延税金資産を認識すべきではない可能性があります。
逆のケースもあります。財政状態計算書に資産または負債として認識されていない項目でも、税務上将来控除される金額が存在すれば、一時差異が生じることがあります。IAS第12号は、財政状態計算書に認識されていない研究費について、将来税務上控除される場合には、帳簿価額ゼロと税務基準額との差額が将来減算一時差異となる例を示しています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
このように、一時差異の識別では、「会計上の残高があるかどうか」だけでなく、「将来の課税所得計算に影響するかどうか」まで見に行く必要があります。
永久差異と一時差異を混同しない
IAS第12号の実務でよく起きる誤りが、一時差異と永久差異の混同です。
永久差異は、会計上の損益と税務上の益金・損金の差異ではありますが、将来解消しない差異です。将来の課税所得を増やしたり減らしたりするものではないため、通常は繰延税金資産も繰延税金負債も認識しません。
一方、一時差異は、将来の課税所得計算に影響を及ぼす差異です。将来の税金を増やす差異であれば繰延税金負債につながり、将来の税金を減らす差異であれば、回収可能性を満たす範囲で繰延税金資産につながります。
日本基準の実務でも、会計上の利益計算と税務上の課税所得計算の相違には、一時的に生じるものと永久に解消されないものがあります。税効果会計は、このうち一時的な差異が将来解消することを前提に、税金費用を対応させる仕組みだと捉えると分かりやすいでしょう。
実務上、永久差異になりやすいのは、損金不算入の罰科金、一定の交際費、非課税の受取配当、税額控除のうち繰越・回収可能性の検討対象にならないものなどです。ただし、税務上の取扱いは法域や制度によって異なります。項目名だけで判断せず、将来の課税所得に影響するかどうかを、そのつど確認することが大切です。
繰延税金負債は原則としてすべての将来加算一時差異に認識する
IAS第12号では、将来加算一時差異について、原則として繰延税金負債を認識します。例外は、のれんの当初認識から生じる繰延税金負債、一定の初期認識取引から生じる繰延税金負債などに限られます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
この原則は、IFRSの税効果会計における「強い出発点」です。将来加算一時差異があり、明確な例外に当てはまらないのであれば、繰延税金負債を認識する方向で検討していきます。
たとえば、会計上の帳簿価額が税務基準額を上回る資産があるとします。その資産を将来回収する際に、税務上控除できる金額が不足していれば、将来の課税所得はその分増えることになります。この将来の税金負担を、いまの財務諸表に反映するのが繰延税金負債です。
実務では、次のような場面で繰延税金負債が論点になりやすくなります。
- 企業結合で識別可能資産を公正価値測定した場合
- IFRS上の再評価または公正価値測定により帳簿価額が増加した場合
- 税務上は簿価引継ぎだが、会計上は取得法により資産・負債を再測定する場合
- 固定資産について、会計上の償却と税務上の償却が異なる場合
- 在外子会社または関連会社に対する投資に未分配利益等が存在する場合
- 複合金融商品の資本部分を区分認識した場合
もっとも、繰延税金負債を認識するかどうかは、将来加算一時差異の有無だけで決まるものではありません。IAS第12号の例外に該当しないか、投資に係る一時差異の特別な規定に触れないか、税率をどう測定するか。これらもあわせて確認しておく必要があります。
繰延税金資産は「将来減算一時差異があること」だけでは足りない
将来減算一時差異は、将来の課税所得を減少させる効果を持っています。ただし、IAS第12号では、将来減算一時差異が存在するというだけで、自動的に繰延税金資産を認識するわけではありません。
繰延税金資産は、その将来減算一時差異を利用できる課税所得が、将来発生する可能性が高い範囲でのみ認識します。IAS第12号は、将来減算一時差異について、利用可能な課税所得が発生する可能性が高い範囲で繰延税金資産を認識することを定めています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
この点は、実務ではきわめて重要です。繰延税金資産も財務諸表上の資産である以上、将来の税金減額効果が実現する見込みについて、きちんと説明できなければならないからです。
とりわけ、次のような項目では、回収可能性の検討が求められます。
- 引当金または未払費用のうち、税務上支払時まで損金算入されないもの
- 固定資産や棚卸資産の評価減・減損のうち、税務上の損金算入が将来となるもの
- 税務上の繰越欠損金
- 税務上の繰越税額控除
- 退職給付、株式報酬、金融資産の減損など、会計上の見積りと税務上の損金算入時期が異なるもの
- 投資に係る将来減算一時差異
将来減算一時差異の検討では、「将来、黒字になる見込みがある」といった抽象的な説明では足りません。どの課税主体で、どの税務当局のもとで、どの期間に、どの種類の課税所得に対してその差異を利用できるのか。ここまで具体的に整理していく必要があります。
IAS第12号は、税法が損失の利用を特定種類の所得に制限している場合には、その種類の所得に対応する一時差異と組み合わせて評価する考え方を示しています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
したがって、繰延税金資産の認識判断では、会社全体の将来利益を眺めるだけでは不十分です。税務上利用可能な所得の種類、課税主体、税務当局、繰越期限、そして将来加算一時差異との対応関係まで確認する必要があります。
初期認識例外をどう整理するか
IAS第12号には、いわゆる初期認識例外があります。
一定の取引では、資産または負債を初めて認識したときに一時差異が生じても、繰延税金資産または繰延税金負債を認識しないことがあります。
繰延税金負債についていえば、のれんの当初認識、または企業結合ではない取引で、取引時に会計上の損益にも課税所得にも影響せず、かつ同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異を生じさせない取引から生じる場合に、初期認識例外が問題になります。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
繰延税金資産についても同様です。企業結合ではない取引で、取引時に会計上の損益にも課税所得にも影響せず、かつ同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異を生じさせない場合には、初期認識例外が問題になります。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
ここで実務上気をつけたいのは、「企業結合ではない」「会計上の損益にも課税所得にも影響しない」という要件だけでは足りない、という点です。2021年のIAS第12号改正により、同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異を生じさせる取引には、初期認識例外を適用しない方向で明確化されました。
IFRS財団は、2021年5月に公表された改正により、IAS第12号第15項および第24項の認識例外の範囲が狭められ、当初認識時に同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異を生じさせる取引には適用されないことを説明しています。
出典:IFRS Foundation|IAS 12 Income Taxes
この改正は、とくにリースや資産除去債務のように、当初認識時に資産と負債が同時に立ち上がる取引で重要になります。IAS第12号は、リース開始日に借手がリース負債と使用権資産を認識するような取引について、適用される税法によっては同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異が生じ、その場合には初期認識例外が適用されず、繰延税金負債および繰延税金資産を認識することを示しています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
この点を旧来の理解のまま処理してしまうと、本来は繰延税金を認識すべき取引で、認識漏れが生じかねません。リース、原状回復義務、廃棄義務、資産除去債務、サービス委譲契約など、資産と負債が同時に立つ取引では、初期認識例外の適用可否を丁寧に検討する必要があります。
のれんの当初認識に係る例外
IAS第12号では、のれんの当初認識から生じる将来加算一時差異について、繰延税金負債を認識しません。
これは、企業結合でのれんを認識する際、そののれん自体に繰延税金負債を認識すると、のれんの金額がさらに増え、その増えたのれんにまた税効果が生じる、という循環計算に似た問題が起きてしまうためです。
ただし、企業結合における繰延税金の論点を「のれんには税効果を認識しない」とだけ理解するのは、やや不十分です。企業結合では、識別可能資産・負債の公正価値と税務基準額との間に差異が生じることがあり、それらについては繰延税金資産または繰延税金負債を認識することがあるからです。
PPAでは、取得企業が取得した識別可能資産・引き受けた負債を公正価値で測定します。被取得企業の貸借対照表に計上されていなかった無形資産等も、評価の対象になり得ます。
ですから、企業結合における税効果では、少なくとも次の3層を分けて考える必要があります。
- 識別可能資産・負債に係る一時差異
- のれんそのものに係る一時差異
- 取得後に生じる測定期間修正または将来事象に係る税効果
企業結合では、繰延税金の認識がのれんの金額に影響し、そののれんの金額が将来の減損テストにも影響することがあります。税効果の論点をPPAの最後に調整するのではなく、識別可能資産・負債の測定段階から繰延税金を意識しておくことが重要です。
投資に係る一時差異は通常の一時差異と分けて考える
IAS第12号では、子会社、支店、関連会社、共同支配の取決めに対する投資に係る一時差異について、特別な規定を置いています。
投資に係る将来加算一時差異については、親会社等が一時差異の解消時期を支配でき、かつ予見可能な将来にその一時差異が解消しない可能性が高い場合を除き、繰延税金負債を認識します。IAS第12号第39項は、子会社等への投資に関連する将来加算一時差異について、親会社が一時差異の解消時期を支配でき、予見可能な将来に解消しない可能性が高い場合を除いて、繰延税金負債を認識することを求めています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
この規定は、海外子会社の未分配利益、為替換算差額、投資簿価と税務基準額の差異などで重要になってきます。
ここでの判断は、「配当する予定がない」の一言で終わるものではありません。次のような観点を、順に確認しておく必要があります。
- 親会社が本当に、配当または売却などの解消時期を支配できるのか
- 関連会社や共同支配企業の場合、他の株主や契約上の制約はないか
- 予見可能な将来に、配当・清算・売却・組織再編・資金回収の予定がないといえるか
- 現地法上の配当規制、資金移動規制、税務上の源泉税はどうなっているか
- グループ資金管理方針やM&A後の投資回収方針と整合しているか
- 未分配利益に対する課税は、分配時課税なのか、発生時課税なのか
また、投資に係る将来減算一時差異については、その一時差異が予見可能な将来に解消する可能性が高く、かつその一時差異を利用できる課税所得が発生する可能性が高いかどうかを検討します。日本基準の実務でも、子会社投資に係る将来減算一時差異は、売却、清算、投資評価減の税務上の損金算入などによって解消されます。そのため、解消可能性と回収可能性の双方が問われる点は、押さえておきたいところです。
投資に係る一時差異は、通常の固定資産や引当金に係る一時差異よりも、経営者の投資方針、資金政策、税務戦略と深く結びついています。したがって監査対応の面でも、会計処理の結論だけでなく、解消時期を支配できる根拠や、予見可能な将来に解消しないという判断の根拠を文書化しておくことが重要です。
連結財務諸表では「連結上の帳簿価額」と「税務基準額」を比較する
IAS第12号では、連結財務諸表における一時差異は、連結財務諸表上の資産・負債の帳簿価額と、適切な税務基準額を比較して判断します。
IAS第12号は、連結財務諸表における一時差異について、連結財務諸表上の資産・負債の帳簿価額と適切な税務基準額を比較して決定することを示しています。連結納税申告が行われる法域では連結税務申告を参照し、それ以外の法域ではグループ各社の税務申告を参照して、税務基準額を決定します。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
これは、連結財務諸表における税効果を考えるうえで見逃せない点です。
たとえば、連結修正によって未実現利益を消去した場合、連結上の資産の帳簿価額と、個別会社の税務基準額が異なることがあります。また、企業結合で取得した資産を連結上で公正価値評価した場合にも、税務上の基準額と連結上の帳簿価額がずれることがあります。
こうした場合、個別財務諸表上の税効果をそのまま合算するだけでは、連結上の一時差異を正しく捉えきれない可能性があります。
連結上の一時差異を整理する際には、次の点を確認します。
- 一時差異は、個別財務諸表上の差異か、それとも連結修正から生じる差異か
- 税務基準額は、単体納税主体ごとに決まるのか、グループ課税制度に基づくのか
- 連結消去、未実現損益、PPA、のれん、為替換算差額、持分法調整が税効果に影響するか
- 税務上の控除または課税が、どの会社・どの法域で発生するか
- 繰延税金資産の回収可能性を、どの課税主体・税務当局単位で判断すべきか
この検討を省いてしまうと、連結財務諸表上の税効果が個別財務諸表上の税効果と整合しないだけでなく、税率差異、注記、監査説明にまで影響が及びます。
OCI・資本への配分は「元の取引に従う」
IAS第12号では、当期税金および繰延税金をどこに認識するかを、税金そのものだけで決めることはしません。税金の原因となった取引または事象が、どこに認識されたかに従います。
IAS第12号は、当期税金および繰延税金の影響について、関連する取引または事象の会計処理と整合させる考え方を示しています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
これは、税効果会計を損益計算だけで考えていると、つい見落としがちな点です。
たとえば、その他の包括利益に認識される項目に係る税効果は、原則としてその他の包括利益に認識します。資本に直接認識される取引に係る税効果は、原則として資本に認識します。企業結合に関連する税効果は、取得法の会計処理に影響することがあります。
実務では、次のような項目で、OCIまたは資本への配分が論点になりやすくなります。
- その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融資産
- キャッシュ・フロー・ヘッジ
- 在外営業活動体の為替換算差額
- 確定給付制度の再測定
- 株式に基づく報酬の税効果
- 再評価モデルを採用する資産
- 複合金融商品の資本部分
- 自己株式取引や所有者との取引
日本基準の実務でも、その他有価証券評価差額、退職給付に係る未認識項目、繰延ヘッジ損益など、純資産またはその他の包括利益に認識される項目があります。これらに係る税効果は、損益計算書上の税金費用だけでなく、純資産・包括利益との関係で捉える必要があります。
IFRS実務では、会計処理の結論を出す段階で、その税効果を損益、OCI、資本、企業結合のどこに配分するのかまで、同時に確認しておくことが求められます。
一時差異を識別する実務手順
IAS第12号の一時差異を実務で整理するときは、次の順序で検討すると、論点の抜け漏れを防ぎやすくなります。
1. IFRS上の帳簿価額を確定する
はじめに、対象となる資産・負債のIFRS上の帳簿価額を確定します。
この段階では、個別基準の会計処理が前提になります。収益認識、リース、金融商品、公正価値測定、減損、企業結合、引当金、株式報酬など、それぞれのIFRS基準に基づく帳簿価額を、正しく把握しておかなければなりません。
税効果会計は、個別基準の結果に上乗せされる会計処理です。個別基準の帳簿価額が誤っていれば、一時差異の金額もそのまま誤ってしまいます。
2. 税務基準額を特定する
次に、税務基準額を特定します。
このとき大切なのは、税務上の簿価だけを見るのではなく、将来の課税所得計算でどの金額が控除または課税されるのかを見ることです。
資産であれば、帳簿価額を回収するときに税務上控除される金額を確認します。負債であれば、負債の決済時に税務上控除される金額、またはすでに課税・控除済みの金額を確認します。
3. 一時差異か永久差異かを判断する
会計上の帳簿価額と税務基準額に差があっても、それが将来解消するとは限りません。
将来の課税所得を増減させる差異であれば、一時差異です。将来解消せず、税率差異にのみ影響する差異であれば、通常は永久差異として扱います。
4. 将来加算か将来減算かを分類する
一時差異を識別したら、将来加算一時差異なのか、将来減算一時差異なのかを分類します。
この分類は、繰延税金負債か繰延税金資産かを決めるだけではありません。繰延税金資産の回収可能性、税率、解消時期、注記にまで影響します。
5. 認識例外の有無を確認する
将来加算一時差異であっても、のれんの当初認識や初期認識例外に該当する場合には、繰延税金負債を認識しないことがあります。
将来減算一時差異であっても、初期認識例外に該当する場合や、将来課税所得の蓋然性を満たさない場合には、繰延税金資産を認識しないことがあります。
6. 課税主体・税務当局・所得種類を確認する
繰延税金資産の回収可能性は、企業グループ全体で一括して判断するものではありません。
同一の税務当局、同一の課税主体、同一の所得種類で利用できるかを確認する必要があります。税法が損失や控除の利用先を制限している場合には、その制限も反映しなければなりません。
7. 認識場所を決定する
最後に、繰延税金を損益、OCI、資本、企業結合のどこに認識するかを決定します。
税金の原因となった取引または事象がどこに認識されたかを追跡し、それと整合するように処理します。
実務で一時差異が論点化しやすい領域
IAS第12号の一時差異は、主要なIFRS論点のほとんどと接続しています。とくに次の領域では、税務基準額と一時差異の判断が重要になります。
リース
IFRS第16号では、借手は原則として使用権資産とリース負債を認識します。税務上、リース料の支払時に損金算入される制度であれば、使用権資産とリース負債の税務基準額をどう考えるかが論点になります。
2021年改正後のIAS第12号では、同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異が生じる取引に初期認識例外が適用されません。そのため、リース開始時に繰延税金資産・繰延税金負債の認識が必要になることがあります。
資産除去債務・原状回復義務
資産除去債務や原状回復義務では、会計上は負債を認識し、対応する金額を有形固定資産の取得原価に含めることがあります。固定資産の領域では、廃棄コストや原状回復義務が、取得原価や負債認識と接続する論点として現れます。
税務上、支出時まで損金算入されない場合には、負債側に将来減算一時差異が生じる可能性があります。あわせて、対応する資産側にも将来加算一時差異が生じる可能性があります。ここでも、初期認識例外の適用可否が重要になります。
企業結合・PPA
企業結合では、取得日に識別可能資産・負債を公正価値で測定します。そのため、会計上の帳簿価額と税務基準額が大きく乖離することがあります。
PPAでは、被取得企業の貸借対照表に計上されていなかった無形資産等を識別し、公正価値で測定することがあります。
この場合、識別した無形資産等に係る繰延税金負債を認識することがあり、その結果としてのれんの金額にも影響します。PPAと税効果は別々の作業ではなく、同時に設計すべき論点だと考えておくのがよいでしょう。
公正価値測定
金融商品、投資不動産、企業結合で取得した資産など、公正価値測定が行われる項目では、会計上の帳簿価額が税務上の基礎と異なることがあります。
公正価値測定にあたっては、測定対象、評価前提、市場、評価技法、インプットを整理する必要があります。
そのうえで税効果会計では、公正価値評価差額が将来課税または控除されるのか、どのタイミングで課税所得に影響するのか、損益・OCI・資本のどこに税効果を認識するのかを確認します。
外貨建取引・在外営業活動体
外貨建取引や在外営業活動体では、機能通貨、表示通貨、税務上の通貨、税務基準額の通貨が、それぞれ異なることがあります。
IAS第21号では、外貨建取引、機能通貨、表示通貨、在外営業活動体の換算が体系的に扱われます。
IAS第12号では、非貨幣性資産または負債の税務基準額が、機能通貨と異なる通貨で決定される場合、為替変動によって一時差異が生じることがあります。税務基準額をどの通貨で把握し、どの為替レートで測定するか。ここが、外貨換算と税効果の接点になります。
株式報酬
株式に基づく報酬では、会計上の費用認識と、税務上の損金算入時期・金額とが一致しないことがあります。IFRS第2号では、持分決済型、現金決済型、源泉税の純額決済要素、権利確定条件、付与日、公正価値などが、主要な判断領域となります。
IAS第12号では、税務当局が将来控除を認める金額と、会計上の帳簿価額との差額が、繰延税金資産を生じさせることがあります。また、税効果の一部が損益ではなく資本に認識されることもあります。
初期認識例外の検討で確認すべきこと
初期認識例外は、「初めて認識したから税効果を認識しない」と形式的に判断してよいものではありません。
実務では、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
- その取引は企業結合か
- 取引時に会計上の損益に影響しているか
- 取引時に課税所得または税務上の欠損金に影響しているか
- 当初認識時に、将来加算一時差異と将来減算一時差異が同額で生じているか
- のれんの当初認識に関する例外か
- 子会社、関連会社、共同支配の取決めに対する投資に係る一時差異か
- 2021年IAS第12号改正後の取扱いを反映しているか
- 税務上の損金算入が、資産側に対応するのか、負債側に対応するのか
- 同一税務当局・同一納税主体で、繰延税金資産の回収可能性を判断できるか
とくにリースや資産除去債務については、旧来の実務感覚のままだと、初期認識例外を広く考えすぎてしまうおそれがあります。現行のIAS第12号では、同額の将来加算・将来減算一時差異が生じる取引について初期認識例外が適用されない点を、必ず確認しておく必要があります。
繰延税金は割引しない
IAS第12号では、繰延税金資産および繰延税金負債を割引きません。
IAS第12号は、各一時差異の解消時期を詳細にスケジューリングして割引計算することは実務上困難、あるいは非常に複雑であり、割引を認めると企業間の比較可能性を損なうとしています。そのうえで、繰延税金資産・負債の割引を、要求も許容もしていません。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
これは、引当金、退職給付債務、リース負債、資産除去債務など、元となる資産・負債が現在価値で測定されている場合でも変わりません。IAS第12号は、一時差異が資産または負債の帳簿価額を参照して決定される以上、その帳簿価額自体が割引計算によって測定されていても、繰延税金資産・負債をさらに割引くことはしない、という考え方を示しています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
したがって、繰延税金の測定において解消時期を把握することは、たしかに重要です。ただしそれは、主に回収可能性、税率、所得種類、表示・開示のためであって、繰延税金そのものを現在価値に割り引くためではありません。
Pillar Two法人所得税に関する例外にも注意する
IAS第12号を現行基準として適用する場合、グローバル・ミニマム課税、いわゆるPillar Twoに関する改正にも注意が必要です。
IAS第12号は、OECDのPillar Twoモデルルールを実施する税法から生じる法人所得税にも適用されます。ただし、Pillar Two法人所得税に関連する繰延税金資産および繰延税金負債については、認識および開示を行わない例外が設けられています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 12 Income Taxes
IASBは2023年5月にIAS第12号を改正し、OECDの国際税制改革に伴う繰延税金の会計処理について、一時的な例外と、影響を受ける企業向けの特定の開示要求を導入しました。
出典:IFRS Foundation|IASB amends tax accounting requirements to help companies respond to international tax reform
本稿の中心は、あくまで一般的な一時差異・税務基準額・繰延税金の認識にあります。ただし、多国籍企業や海外子会社を有する企業では、Pillar Two法人所得税が通常の繰延税金の検討から除外されるのか、あるいは別途開示が必要になるのかを、あわせて確認しておく必要があります。
監査対応では「差額表」ではなく「判断プロセス」を残す
一時差異の検討資料は、会計残高と税務残高の差額表だけでは足りません。
監査対応やクライアントへの説明に耐える資料にするためには、次の要素を整理しておく必要があります。
- 対象となる資産または負債のIFRS上の帳簿価額
- 税務基準額の算定根拠
- 税法上の損金算入・益金算入時期
- 一時差異か永久差異かの判断
- 将来加算一時差異か将来減算一時差異かの分類
- 初期認識例外の適用可否
- 企業結合、投資、連結修正など特別な規定の該当性
- 同一税務当局・同一課税主体での回収可能性
- 税率および税法の制定または実質的制定の状況
- 損益、OCI、資本、企業結合への配分
- 開示項目との整合性
- 過年度からの継続性と、見積り変更の有無
会計上の見積りは、経営者の仮定によって財務諸表に大きな影響を与えることがあり、監査上も重要な論点になりやすい領域です。とりわけ繰延税金資産の計上は、将来課税所得や経営環境の見込みを、期末時点で合理的に見積もる判断と結びついています。
一時差異の資料は、税務担当者だけで完結するものではありません。会計担当者、連結担当者、M&A担当者、経営企画、法務、海外子会社、そして監査人との間で、同じ前提を共有できる形にしておくことが望まれます。
実務で見落としやすい注意点
IAS第12号の一時差異・税務基準額の検討では、次のような点が見落とされがちです。
税務基準額を税務簿価と同一視する
税務簿価は重要な出発点ですが、IAS第12号上の税務基準額は、将来の課税所得計算において控除または課税される金額として捉えます。税務簿価という名称が存在しない項目でも、税務基準額が存在することがあります。
個別財務諸表の税効果を連結にそのまま持ち込む
連結修正、PPA、未実現利益、在外子会社換算、持分法調整によって、連結財務諸表固有の一時差異が生じます。個別税効果の合算だけでは、連結上の税効果を正しく説明できないことがあります。
初期認識例外を広く適用しすぎる
2021年改正後は、同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異を生じさせる取引について、初期認識例外が適用されない点が明確化されています。リースや資産除去債務では、とくに注意が必要です。
繰延税金資産の認識を一時差異の存在だけで判断する
将来減算一時差異が存在しても、利用可能な課税所得が見込まれなければ、繰延税金資産は認識できません。所得種類、税務当局、納税主体、繰越期限、将来加算一時差異との対応関係を確認する必要があります。
税効果の認識場所を後回しにする
税効果を損益に認識するのか、OCIに認識するのか、資本に認識するのか、企業結合会計に反映するのか。これは財務諸表の表示に直接影響します。税効果の検討は、注記作成の段階ではなく、会計処理を検討する段階から始めておく必要があります。
IAS第12号の一時差異は、会計と税務をつなぐ判断の入口である
IAS第12号における一時差異の検討は、単なる税効果計算の前処理ではありません。
資産・負債の帳簿価額は、どのように回収または決済されるのか。税務上、その回収または決済にはどのような影響が生じるのか。その差異は、将来の課税所得を増やすのか、それとも減らすのか。繰延税金資産または繰延税金負債を認識すべきなのか。その税効果を、損益、OCI、資本、企業結合のどこに認識すべきなのか。そして、その判断を監査人、経営者、財務諸表利用者に対して説明できるのか。
これらを一体で整理していくことが、IAS第12号の実務判断です。
一時差異・税務基準額の検討が曖昧なままでは、その先の判断も揺らぎます。繰延税金資産の回収可能性、企業結合に伴う税効果、海外子会社投資、リース、資産除去債務、公正価値測定、OCI項目の税効果といった後続論点が、いずれも不安定になっていくためです。
逆に、税務基準額と一時差異を丁寧に整理できれば、IAS第12号の多くの論点は構造的に説明できるようになります。IFRS財務報告における法人所得税会計は、税務計算を会計に反映する作業ではありません。将来の税金影響を、財務報告上の資産・負債として説明可能にしていく判断の領域なのです。
IAS第12号に関するご相談について
IAS第12号の一時差異・税務基準額の整理は、会計処理、税務上の取扱い、連結修正、M&A、海外子会社、表示・開示が交差する領域です。
とりわけ、IFRS任意適用企業、IFRS導入を検討している企業、海外子会社を有する企業、M&Aや組織再編を行う企業では、繰延税金の認識判断が財務諸表の見え方や監査対応に大きく影響することがあります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRS・日本基準・税務の接点を踏まえ、一時差異の整理、税務基準額の検討、繰延税金資産・負債の認識判断、開示・監査対応資料の整理を支援しています。
IAS第12号に関する一時差異、税務基準額、初期認識例外、投資に係る一時差異、OCI・資本への配分について整理が必要な場合は、現在の会計処理、税務上の前提、対象取引、財務諸表への影響を確認したうえで、早い段階でご相談いただければと思います。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 判断の軸 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 税務基準額 | 税務目的で資産・負債に帰属する金額 | 税務簿価ではなく、将来控除・課税される金額として整理する |
| 一時差異 | 帳簿価額と税務基準額の差額 | 将来課税所得に影響する差異かを確認する |
| 永久差異 | 将来解消しない差異 | 繰延税金ではなく税率差異として扱うかを検討する |
| 将来加算一時差異 | 将来課税所得を増加させる差異 | 原則として繰延税金負債を認識する |
| 将来減算一時差異 | 将来課税所得を減少させる差異 | 利用可能な課税所得が見込まれる範囲で繰延税金資産を認識する |
| 初期認識例外 | 一定の初期認識取引について繰延税金を認識しない例外 | 2021年改正後は、同額の将来加算・将来減算一時差異を生じる取引に注意する |
| のれん | のれんの当初認識から生じる将来加算一時差異 | 識別可能資産・負債に係る税効果とは区別する |
| 投資に係る一時差異 | 子会社・関連会社・共同支配取決めに係る差異 | 解消時期を支配できるか、予見可能な将来に解消するかを確認する |
| 連結上の一時差異 | 連結上の帳簿価額と税務基準額の差額 | 個別財務諸表上の税効果と連結修正の税効果を区別する |
| OCI・資本への配分 | 税効果は元の取引の認識場所に従う | 損益、OCI、資本、企業結合のどこに認識するかを確認する |
| 割引 | 繰延税金資産・負債は割引しない | 元の資産・負債が現在価値で測定されていても、繰延税金は割引しない |
| 監査対応 | 差額表ではなく判断プロセスを残す | 税務基準額、認識例外、回収可能性、配分根拠を文書化する |