個人事業を始めた当初は、自分一人で売上や経費を管理していた方も多いはずです。ところが事業が少し進むと、必ずといってよいほど「人へ支払う」場面が出てきます。
たとえば、アルバイトを雇う。業務委託で手伝ってもらう。家族に仕事を手伝ってもらい、青色事業専従者給与を支払う。繁忙期だけ外部の人に日当を支払う。あるいは、元従業員に、今後は外注先として仕事を頼む。こうした場面です。
このとき問題になるのは、「経費になるかどうか」だけではありません。
給与であれば、源泉徴収、納付、年末調整、源泉徴収票、給与支払報告書、そして扶養控除等申告書の保存が必要になります。外注費であれば、消費税、インボイス、報酬・料金の源泉徴収、支払調書、契約書・請求書の整備が問題になります。家族への支払であれば、専従性、届出、金額の相当性、さらに支払実態まで確認しなければなりません。
現場では、次のような整理をよく見かけます。
「給与にすると面倒だから外注費にする」
「家族だから、支払った分は自由に経費にできる」
「個人事業だから源泉徴収は関係ない」
「源泉徴収は年末にまとめて考えればよい」
しかし、こうした整理は、後から大きなリスクとなって跳ね返ってきます。源泉所得税は、支払う側に徴収・納付の義務が生じる税目です。支払った時点での判断を誤れば、源泉徴収漏れ、納付漏れ、不納付加算税、消費税の仕入税額控除の否認、専従者給与の否認といった形で、思わぬところまで影響が広がっていきます。
この記事では、給与・外注・専従者に関する源泉徴収について、個人事業者が支払う側として何を確認しておくべきかを整理していきます。
この記事で扱う範囲
この記事では、主に次の論点を扱います。
| 論点 | この記事で扱う内容 |
|---|---|
| 給与支払者の源泉徴収義務 | 個人事業者が人を雇った場合の源泉徴収 |
| 給与支払事務所等の届出 | 給与を支払う事務所等を開設した場合の届出 |
| 源泉徴収税額表 | 月額表、日額表、甲欄、乙欄、丙欄の基本 |
| 納付期限 | 原則翌月10日、納期の特例 |
| 年末調整 | 扶養控除等申告書、給与収入2,000万円以下、過不足精算 |
| 源泉徴収票・給与支払報告書 | 従業員への交付、税務署・市区町村への提出 |
| 外注費との区分 | 雇用か請負か、給与か外注費かの判断軸 |
| 消費税との関係 | 給与は課税仕入れではない、外注費は課税仕入れになり得る |
| 青色事業専従者給与 | 専従性、届出、金額の相当性、源泉徴収 |
| 白色事業専従者控除 | 青色事業専従者給与との違い |
| 税務調査上の注意点 | 源泉徴収漏れ、外注費認定、家族給与の実態確認 |
一方で、給与計算ソフトの具体的な操作、社会保険・労働保険の詳細、労働基準法上の労務管理、給与規程の作成、非居住者への支払、退職所得の詳細、そして報酬・料金の源泉徴収の網羅については、この記事では扱いません。報酬・料金の源泉徴収と支払調書については、別記事「8-9. 報酬・料金の源泉徴収と支払調書」で整理しています。
給与・外注・専従者の判断は、まず「支払の性質」を分ける
人へ支払うお金は、名称だけで判断できるものではありません。
「日当」「謝礼」「外注費」「業務委託料」「手伝い代」「専従者給与」といった呼び方よりも、実際にどのような関係のもとで、どのような働き方をし、どのような資料が残っているかのほうが、はるかに重要です。
| 支払の種類 | 税務上の主な整理 | 源泉徴収の基本 |
|---|---|---|
| 従業員・アルバイトへの給与 | 給与所得 | 給与として源泉徴収、年末調整の対象になり得る |
| 役務提供を受ける外注費 | 事業者への支払 | 原則として給与の源泉徴収ではないが、報酬・料金に該当すれば源泉徴収対象 |
| 青色事業専従者給与 | 生計一親族への給与の特例 | 給与として源泉徴収・年末調整の整理が必要 |
| 白色事業専従者控除 | 実際の給与ではなく事業主側の控除制度 | 青色専従者給与のような給与源泉とは異なる |
| 実態が給与である外注費 | 給与所得 | 外注費処理をしていても給与として源泉徴収が問題になる |
| 実態のない家族給与 | 必要経費否認リスク | 源泉以前に、給与としての実態・相当性が問題になる |
源泉徴収の実務は、支払った後に帳簿上の勘定科目を選べば済む、というものではありません。支払う前の段階で、それが給与なのか、外注なのか、報酬・料金なのか、あるいは青色事業専従者給与なのかを整理しておく必要があります。
給与を支払うと、個人事業者も源泉徴収義務者になる
源泉徴収義務者になるのは、会社だけではありません。個人事業者であっても、人を雇って給与を支払う場合には、源泉徴収義務者になります。
源泉徴収義務者とは、所得税および復興特別所得税を差し引いて国に納める義務を負う者をいいます。会社や個人が人を雇って給与を支払ったり、一定の報酬を支払ったりする場合には、支払の都度、所得税および復興特別所得税を差し引き、原則として支払月の翌月10日までに納付しなければなりません。
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは
給与を支払う場合の基本的な流れは、次のとおりです。
| 時点 | 支払者が行うこと |
|---|---|
| 雇用・支払開始前 | 給与か外注かを判定する |
| 給与支払開始時 | 必要に応じて給与支払事務所等の届出を確認する |
| 毎月・毎回の支払時 | 源泉徴収税額表により源泉徴収税額を計算する |
| 翌月10日まで | 源泉所得税等を納付する |
| 1月・7月等 | 納期の特例を受けている場合は年2回納付する |
| 年末 | 年末調整の要否を確認する |
| 翌年1月 | 源泉徴収票、給与支払報告書、法定調書を整理する |
| 保存期間中 | 扶養控除等申告書、源泉徴収簿、賃金台帳等を保存する |
個人事業者にとって押さえておきたいのは、給与を払ったその瞬間から、支払者としての税務管理が始まるという点です。確定申告のときにまとめて考えればよい、では間に合わない場面があります。
給与支払事務所等の届出を確認する
給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設、移転、または廃止した場合には、給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出が必要になります。
この届出は、給与の支払者が国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設、移転、または廃止したときに行う手続で、提出時期は、その事実があった日から1か月以内とされています。
出典:国税庁|A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
| 場面 | 確認すべき届出 |
|---|---|
| 個人事業を開始した | 個人事業の開業・廃業等届出書、青色申告承認申請書等 |
| 従業員を雇い始めた | 給与支払事務所等の開設届出の要否 |
| 事務所を移転した | 給与支払事務所等の移転届出 |
| 給与支払をやめた | 給与支払事務所等の廃止届出 |
| 青色事業専従者給与を支払う | 青色事業専従者給与に関する届出書、源泉徴収体制 |
なお、個人事業の開業届と給与支払事務所等の届出の関係については、手続案内上の取扱いが時期によって整理されています。開業年や令和8年1月1日以後の取扱いを含め、実際に提出する際は、最新の国税庁の様式・手続案内を確認しておくことをおすすめします。
出典:国税庁|No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
給与の源泉徴収は「税額表」と「扶養控除等申告書」で変わる
給与から源泉徴収する税額は、給与所得の源泉徴収税額表を用いて計算します。給与が賞与か、それ以外の給与かによって計算方法は異なり、賞与以外の給料・賃金については源泉徴収税額表を使います。
平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得については、源泉所得税を徴収する際に復興特別所得税も併せて徴収・納付することとされており、平成25年分以後の源泉徴収税額表の税額には、この復興特別所得税相当額が含まれています。
出典:国税庁|No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収
給与の源泉徴収では、とりわけ次の点を確認します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 給与の支給方法 | 月給、日給、時給、賞与 |
| 税額表 | 月額表、日額表、賞与に対する算出率の表 |
| 扶養控除等申告書 | 提出があるかどうか |
| 適用欄 | 甲欄、乙欄、丙欄 |
| 扶養親族等の数 | 申告書に基づく |
| 社会保険料等 | 控除後の金額を使う場面がある |
| 賞与 | 通常の給与とは別計算 |
| 中途入社・退職 | 申告書の有効性、前職分、退職後支給を確認 |
扶養控除等申告書を提出している従業員に月給を支払う場合には、通常、月額表の甲欄を使います。提出がない場合には乙欄を使います。使用する税額表は給与の支給区分に応じて決まり、さらに、扶養控除等申告書の提出の有無によって適用欄が変わる、という仕組みです。
出典:国税庁|No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収
パート・アルバイトも給与であれば源泉徴収の対象になる
「パートだから源泉徴収は不要」「アルバイトだから年末にまとめればよい」という整理はできません。パートやアルバイトであっても、支払うものが給与であれば、源泉徴収の対象になります。
パートやアルバイトに給与を支払う際の源泉徴収税額は、一般の社員と同じように、扶養控除等申告書の提出の有無、そして給与の支給方法に応じて、源泉徴収税額表の月額表または日額表の甲欄・乙欄を使って求めます。給与を勤務した日または時間によって計算しており、雇用契約期間が2か月以内など一定の要件に該当する場合には、日額表の丙欄を使うこともあります。
出典:国税庁|No.2514 パートやアルバイトの源泉徴収
| 雇用形態 | 源泉徴収上の注意点 |
|---|---|
| 正社員 | 月額表、甲欄、年末調整が基本 |
| パート | 扶養控除等申告書の提出状況を確認 |
| アルバイト | 月額表・日額表・丙欄の要件を確認 |
| 短期雇用 | 契約期間、日給・時給、継続期間を確認 |
| 複数勤務者 | 主たる給与か従たる給与かを確認 |
| 退職者への後払い | 退職後支給の給与として源泉徴収の取扱いを確認 |
パート・アルバイトで源泉徴収税額が0円になる月があったとしても、それは「源泉徴収義務がない」という意味ではありません。税額表に当てはめた結果が0円であることと、源泉徴収の事務そのものが不要であることは、まったく別の話です。
扶養控除等申告書は、提出時期と保存が重要
扶養控除等申告書は、源泉徴収税額の計算と年末調整の前提となる、重要な書類です。
この申告書は、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日までに、中途就職の場合には就職後最初の給与の支払を受ける日の前日までに、給与の支払者へ提出することとされています。提出された申告書は、税務署長や市区町村長から特に提出を求められた場合を除いて、給与の支払者が保管します。
出典:国税庁|A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告
保存期間についても定めがあります。源泉徴収義務者は、扶養控除等申告書等を、その提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間、保存しなければなりません。
出典:国税庁|No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間
| 書類 | 実務上の役割 |
|---|---|
| 扶養控除等申告書 | 甲欄適用、扶養控除等の確認 |
| 配偶者控除等申告書 | 年末調整での配偶者控除等 |
| 基礎控除申告書 | 年末調整での基礎控除 |
| 特定親族特別控除申告書 | 令和7年分以後の年末調整で注意 |
| 保険料控除申告書 | 生命保険料控除、地震保険料控除等 |
| 住宅借入金等特別控除申告書 | 2年目以後の住宅ローン控除 |
| 源泉徴収簿 | 毎月の給与、源泉税、年末調整の記録 |
令和7年分の年末調整では、基礎控除の見直し、給与所得控除の見直し、扶養親族等の所得要件の改正、特定親族特別控除の創設などが案内されています。年末調整は毎年同じ作業のように見えますが、このように制度変更が入ることがあります。
出典:国税庁|年末調整がよくわかるページ(令和7年分)
納付期限は原則翌月10日、納期の特例は「申請してから」
給与から源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として、給与を支払った月の翌月10日までに納付します。
| 支払月 | 原則納付期限 |
|---|---|
| 1月支払分 | 2月10日 |
| 3月支払分 | 4月10日 |
| 6月支払分 | 7月10日 |
| 12月支払分 | 翌年1月10日 |
小規模な給与支払者には、納期の特例が設けられています。給与の支給人員が常時10人未満、つまり9人以下である給与等の支払者は、申請により、給与等から源泉徴収した所得税等を年2回にまとめて納付できる場合があります。
この特例の対象になるのは、給与や退職金から源泉徴収した所得税等と、税理士・弁護士・司法書士など一定の報酬から源泉徴収した所得税等に限られます。納期は、1月から6月までの分が7月10日、7月から12月までの分が翌年1月20日です。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
| 区分 | 納付期限 |
|---|---|
| 原則 | 支払月の翌月10日 |
| 納期の特例・1月から6月分 | 7月10日 |
| 納期の特例・7月から12月分 | 翌年1月20日 |
ここで気をつけたいのは、納期の特例が自動的に適用されるものではないという点です。申請書を提出したうえで、適用の開始時期を確認する必要があります。
また、納期の特例があるからといって、給与計算や源泉徴収税額の計算まで半年に一度でよい、というわけではありません。毎月、あるいは各支払の時点で、給与額、社会保険料等、扶養控除等申告書、源泉徴収税額を整理しておく必要があります。
年末調整は、源泉徴収税額を精算する手続である
年末調整は、毎月の源泉徴収税額と、年間の正しい所得税額との差額を精算する手続です。
言い換えれば、源泉徴収された税額の年間合計額と、その年の年税額とを一致させる手続であり、原則として、勤務先に扶養控除等申告書を提出している人が対象になります。ただし、給与収入金額が2,000万円を超える人など、一定の人は年末調整の対象にはなりません。
出典:国税庁|給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)
| 年末調整で確認するもの | 内容 |
|---|---|
| 年間給与額 | 1月から12月までに支払う給与・賞与 |
| 源泉徴収税額 | 毎月・賞与で徴収した税額 |
| 扶養控除等申告書 | 扶養、障害者、寡婦、ひとり親等 |
| 基礎控除申告書等 | 基礎控除、配偶者控除、所得金額調整控除等 |
| 保険料控除申告書 | 生命保険料、地震保険料等 |
| 住宅ローン控除関係 | 2年目以後の住宅借入金等特別控除 |
| 前職分源泉徴収票 | 中途入社者の前職給与 |
| 過不足額 | 還付または追加徴収 |
個人事業者が家族や従業員を雇う場合でも、年末調整が必要になることがあります。給与支払者として、年末調整の資料回収から、確認、精算、そして源泉徴収票の交付までを行う前提で、体制を整えておく必要があります。
源泉徴収票・給与支払報告書は、年明けの重要手続
給与を支払った場合には、源泉徴収票と給与支払報告書の整理も欠かせません。
給与所得の源泉徴収票は、給与等の支払者が、給与等を支払ったすべての受給者について作成し、交付することとされています。ただし、税務署へ提出するものは、一定の範囲に限られます。また、税務署に提出する源泉徴収票にはマイナンバーまたは法人番号を記載する必要がありますが、受給者に交付する源泉徴収票には、マイナンバーおよび法人番号を記載しません。
出典:国税庁|No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等
あわせて、法定調書の提出義務者は、給与支払報告書を、受給者の住所地の市区町村へ提出する必要があります。
出典:国税庁|No.7400 法定調書の提出義務者
| 手続 | 提出・交付先 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 源泉徴収票の交付 | 従業員・専従者等 | すべての受給者に交付 |
| 源泉徴収票の税務署提出 | 所轄税務署 | 提出範囲に該当するもの |
| 給与支払報告書 | 市区町村 | 住民税計算に関係 |
| 法定調書合計表 | 税務署 | 源泉徴収票・支払調書等を集計 |
| マイナンバー管理 | 支払者側 | 本人交付用には記載しない |
なお、令和9年1月1日以後は、市区町村に給与支払報告書を提出した場合に、税務署長に給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなされる制度が予定されています。ただし、受給者へ交付する源泉徴収票については、引き続き、すべての受給者について作成・交付が必要です。
出典:国税庁|源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ
外注費として支払えば源泉徴収が不要、とは限らない
外注費として支払う場合、給与の源泉徴収税額表による源泉徴収は行いません。しかし、外注費だから常に源泉徴収が不要かというと、そうとは言い切れません。
まず、支払の内容が、原稿料、講演料、士業報酬、デザイン料、出演料など、所得税法上の報酬・料金に該当する場合には、報酬・料金の源泉徴収が必要になることがあります。この点は、前回の記事「8-9. 報酬・料金の源泉徴収と支払調書」で扱う領域です。
次に、これがもっとも重要なのですが、形式上は外注費であっても、実態が給与であれば、給与として源泉徴収が問題になります。
| 外注費として処理した場合でも確認すべき点 | 見るべき資料 |
|---|---|
| 業務内容 | 契約書、仕様書、作業指示書 |
| 指揮命令 | 誰が業務方法を決めているか |
| 時間・場所の拘束 | 出勤時間、勤務場所、シフト |
| 代替性 | 本人以外が代わりに遂行できるか |
| 危険負担 | 成果未完成時の報酬請求権 |
| 材料・道具 | 誰が負担しているか |
| 報酬計算 | 時間給、日給、成果物単価 |
| 請求書 | 実質が給与明細になっていないか |
| 社会保険・労災 | 事業者として独立しているか |
| 消費税 | 課税仕入れとして扱えるか |
消費税法基本通達では、個人が雇用契約またはこれに準ずる契約に基づいて他の者に従属し、その他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合には、消費税法上の事業に該当しないとされています。出来高払の給与は事業に該当せず、請負による報酬を対価とする役務提供は事業に該当します。その区分が明らかでない場合には、代替性、指揮監督、危険負担、材料・用具の供与などを総合的に勘案して判定することとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 1-1-1 個人事業者と給与所得者の区分
給与と外注費を間違えると、所得税と消費税の両方に影響する
給与と外注費の区分を誤ると、源泉所得税だけでなく、消費税にも影響が及びます。
| 区分 | 給与 | 外注費 |
|---|---|---|
| 所得税 | 給与所得として源泉徴収 | 報酬・料金に該当すれば源泉徴収 |
| 消費税 | 課税仕入れに該当しない | 課税仕入れになり得る |
| インボイス | 原則として給与支払には関係しない | 仕入税額控除で確認が必要 |
| 資料 | 雇用契約、賃金台帳、源泉徴収簿 | 業務委託契約、請求書、成果物 |
| 年末調整 | 対象になり得る | 対象外 |
| 支払調書 | 給与所得の源泉徴収票等 | 報酬・料金等の支払調書等 |
| 否認リスク | 給与処理漏れ、源泉漏れ | 給与認定、仕入税額控除否認 |
外注費として消費税の仕入税額控除を取っていたものが、実態として給与と認定されると、給与としての源泉徴収漏れが問題になるだけでなく、消費税の課税仕入れではないとして仕入税額控除が否認される可能性があります。
これは、「請求書があるかどうか」だけで解決する問題ではありません。請求書があっても、実態が給与であれば給与です。反対に、日当形式で支払っていても、実態として独立した請負であれば、外注費として整理できる余地があります。要は、契約・働き方・責任・資料が、たがいに整合しているかどうかなのです。
元従業員を外注化する場合は、特に慎重に見る
実務のうえで、もっとも注意して確認したいのが、元従業員を外注先として扱うケースです。
| 確認事項 | 注意点 |
|---|---|
| 退職後も同じ現場で同じ仕事をしているか | 勤務実態が変わっていない可能性 |
| 勤務時間や出勤場所が決められているか | 時間的・場所的拘束がある可能性 |
| 仕事を断れるか | 独立した事業者性の判断材料 |
| 代替者を用意できるか | 本人拘束が強いと給与に近い |
| 道具や材料を誰が負担するか | 支払者負担なら給与に近い |
| 報酬は成果物単価か時間単価か | 時給・日給は給与に近い事情 |
| 他社の仕事もしているか | 独立性の判断材料 |
| 請求書の内容 | 実質的に勤怠表になっていないか |
| 消費税の請求 | 形式だけでなく事業実態が必要 |
社会保険料の負担を避けたい、あるいは本人の手取りを維持したい。そうした理由だけで外注化すると、税務上の説明が難しくなります。税務署や金融機関に対してきちんと説明できる処理にするには、外注先としての独立性、契約内容、成果物、請求、支払、そしてリスクの負担まで、一つひとつ整理しておく必要があります。
青色事業専従者給与は「家族への支払」ではなく、制度要件を満たす給与である
家族に給与を支払う場面、とりわけ青色事業専従者給与は、節税策として語られることの多い制度です。しかし、これは「家族に払えば何でも経費になる」という制度ではありません。
青色事業専従者給与として認められるための要件としては、青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること、その年の12月31日現在で15歳以上であること、その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合には従事可能期間の2分の1を超える期間)その青色申告者の事業に専ら従事していること、そして、青色事業専従者給与に関する届出書を納税地の所轄税務署長に提出していることなどが挙げられています。
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
| 要件 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 生計一親族 | 配偶者・親族で、事業主と生計を一にしているか |
| 年齢 | その年12月31日現在で15歳以上か |
| 専従性 | 事業に専ら従事しているか |
| 従事期間 | 原則としてその年を通じて6か月超か |
| 届出 | 青色事業専従者給与に関する届出書を期限内に提出しているか |
| 支給方法 | 届出書に記載された方法・金額の範囲内か |
| 相当性 | 職務内容、勤務時間、能力、事業規模に照らして過大でないか |
| 支払実態 | 実際に支払われ、記録が残っているか |
青色事業専従者給与は、あくまで給与です。したがって、制度上、必要経費として認められるかどうかの確認に加えて、給与支払者としての源泉徴収、年末調整、源泉徴収票、給与支払報告書の整理も必要になります。
専従者給与は、届出だけで認められるわけではない
青色事業専従者給与でよくある誤解が、「届出書を出しているから大丈夫」というものです。
届出は必要条件ではありますが、十分条件ではありません。青色事業専従者給与は、届出書に記載された方法により、記載金額の範囲内で支払われていること、かつ、その額が労務の対価として相当と認められる金額であることが要件とされており、過大とされる部分は必要経費になりません。
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
| 問題になりやすい処理 | 税務上の見方 |
|---|---|
| 実際にはほとんど働いていない | 専従性・実態が問題 |
| 家事の延長程度の手伝い | 事業従事といえるか問題 |
| 毎月の支払記録がない | 支払実態が問題 |
| 年末にまとめて振り替える | 届出どおりの支給か問題 |
| 業務内容に比べて高額 | 相当性が問題 |
| 他にフルタイム勤務がある | 専ら従事しているか問題 |
| 不動産貸付が事業的規模でない | 専従者給与の適用可否が問題 |
| 家族口座ではなく生活費口座で曖昧 | 支払実態・帰属が問題 |
とくに個人事業では、家計と事業の財布がどうしても混ざりやすくなります。専従者給与を給与として説明するには、勤務内容、勤務日数、勤務時間、給与計算、振込記録、源泉徴収、年末調整、そして帳簿処理が、ひととおり整っている必要があります。
不動産所得では、専従者給与が使えるとは限らない
不動産収入のある個人も、家族に管理業務を手伝ってもらうことがあります。ただし、不動産所得で青色事業専従者給与や白色事業専従者控除を適用できるのは、不動産の貸付けが事業として行われている場合に限られます。不動産所得の場合、これらの適用があるのは不動産貸付けが事業として行われているときであって、それ以外の場合には適用がありません。
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
| 不動産収入の状況 | 専従者給与の確認 |
|---|---|
| 小規模な貸付 | 事業的規模に該当するか慎重に確認 |
| 複数物件を継続管理 | 管理業務の実態を確認 |
| 家族が入居者対応をしている | 業務内容・時間・記録が必要 |
| 管理会社へ委託済み | 家族の業務実態が乏しい可能性 |
| 共有不動産 | 所得の帰属、持分、管理者を確認 |
| 法人管理会社を検討 | 管理実態・報酬相当性・契約を別途確認 |
不動産所得では、「家族が少し手伝っている」という程度で専従者給与を設計するのは危険です。物件数、管理業務、委託の状況、事業的規模、そして支払額の相当性を、一体のものとして確認する必要があります。
白色事業専従者控除は、青色事業専従者給与と異なる
白色申告者の場合、生計を一にする配偶者その他の親族に支払った給与等を、そのまま必要経費に算入することはできません。ただし、これらの親族が専ら事業に従事している場合には、事業専従者控除として、配偶者は最高86万円、15歳以上のその他の親族は最高50万円を、必要経費として差し引くことができます。
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
| 区分 | 青色事業専従者給与 | 白色事業専従者控除 |
|---|---|---|
| 前提 | 青色申告者 | 白色申告者 |
| 性質 | 実際に支払う給与 | 事業主側の控除額 |
| 届出 | 事前届出が必要 | 確定申告書に記載 |
| 金額 | 届出範囲内かつ相当額 | 配偶者最高86万円、その他最高50万円等 |
| 源泉徴収 | 給与として源泉徴収の整理が必要 | 青色専従者給与のような給与源泉とは異なる |
| 扶養・配偶者控除 | 専従者は同一生計配偶者・扶養親族になれない | 同様に扶養親族等にはなれない |
青色事業専従者として給与を受ける人、または白色申告者の事業専従者である人は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません。
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
このため、専従者給与や事業専従者控除を検討するときは、事業主側の必要経費という視点だけでなく、家族全体の所得、配偶者控除・扶養控除、住民税、社会保険、そして納税資金まで見わたして判断する必要があります。
給与・外注・専従者で保存すべき資料
源泉徴収や給与・外注の区分は、後から説明できる資料が残っているかどうかで、大きく左右されます。
| 区分 | 保存すべき資料 |
|---|---|
| 従業員給与 | 雇用契約書、労働条件通知書、勤怠表、賃金台帳、扶養控除等申告書、源泉徴収簿、給与明細、振込記録 |
| パート・アルバイト | 雇用契約期間、シフト表、日給・時給計算、扶養控除等申告書、日額表・丙欄の判定資料 |
| 外注費 | 業務委託契約書、請求書、納品物、検収記録、作業報告書、振込記録、インボイス、取引先の事業実態 |
| 報酬・料金 | 支払内容、源泉徴収税額計算、支払調書、契約書、請求書、納付書控え |
| 青色事業専従者給与 | 青色事業専従者給与届出書、勤務記録、職務内容、給与計算、支払記録、源泉徴収簿、年末調整資料 |
| 白色事業専従者控除 | 専従者の従事実態、確定申告書記載、事業所得計算資料 |
| 源泉納付 | 所得税徴収高計算書、納付書控え、e-Tax納付記録 |
| 年末手続 | 源泉徴収票、給与支払報告書、法定調書合計表 |
給与計算ソフトやクラウド会計を使っていても、入力された内容が正しいとは限りません。とくに、給与と外注費の区分、専従者給与の勤務実態、扶養控除等申告書の有無、源泉徴収税額表の適用欄については、ソフト任せにせず、自分の目で確認しておくことをおすすめします。
よくある判断ミス
給与・外注・専従者に関する源泉徴収では、次のようなミスが起きやすくなります。
| ミス | 問題点 |
|---|---|
| 個人事業だから源泉徴収義務はないと思っている | 給与を支払えば個人事業者も源泉徴収義務者になる |
| パート・アルバイトの源泉徴収をしていない | 給与であれば税額表による判定が必要 |
| 扶養控除等申告書がないのに甲欄で計算している | 乙欄適用漏れの可能性 |
| 納期の特例を申請せず半年納付にしている | 納付遅れになる可能性 |
| 納期の特例をすべての報酬に適用している | 対象外の報酬がある |
| 外注費として処理すれば源泉不要と思っている | 実態が給与なら給与源泉が問題 |
| 請求書があるから外注費でよいと思っている | 請求書だけでは実態判断を覆せない |
| 元従業員を形式的に外注化している | 給与認定、源泉漏れ、消費税否認のリスク |
| 家族に支払えば経費になると思っている | 専従性、届出、相当性、支払実態が必要 |
| 専従者給与を年末にまとめて振り込んでいる | 届出どおりの支給方法か問題 |
| 専従者を扶養控除にも入れている | 専従者は扶養親族等になれない |
| 源泉徴収票を作成していない | 給与受給者への交付義務に注意 |
| 源泉税を預り金ではなく資金繰りに使っている | 納付資金不足、不納付加算税リスク |
源泉徴収とは、支払う側が「預かっている税金」を、期限までに納める仕組みです。納税資金として別に管理しておかないと、事業資金と混ざってしまい、いざ納付というときに資金が足りなくなることがあります。
支払前に確認したい実務チェックリスト
給与を支払う場合
| 確認事項 | チェック |
|---|---|
| 雇用契約書・労働条件通知書を整備しているか | |
| 給与支払事務所等の届出を確認したか | |
| 扶養控除等申告書を受領したか | |
| 甲欄・乙欄・丙欄を正しく判定したか | |
| 月額表・日額表・賞与表を正しく使っているか | |
| 源泉徴収税額を給与支払時に控除しているか | |
| 原則翌月10日までに納付する体制があるか | |
| 納期の特例を申請している場合、適用開始時期を確認したか | |
| 年末調整の対象者を確認したか | |
| 源泉徴収票・給与支払報告書の作成体制があるか |
外注費を支払う場合
| 確認事項 | チェック |
|---|---|
| 実態が雇用ではなく請負・業務委託といえるか | |
| 指揮命令、時間拘束、場所拘束を確認したか | |
| 代替性、危険負担、成果物の有無を確認したか | |
| 契約書・仕様書・請求書が整っているか | |
| 報酬・料金の源泉徴収対象か確認したか | |
| 消費税の課税仕入れとして処理できるか確認したか | |
| インボイス・請求書保存要件を確認したか | |
| 元従業員の外注化ではないか確認したか | |
| 支払調書の提出要否を確認したか |
青色事業専従者給与を支払う場合
| 確認事項 | チェック |
|---|---|
| 青色申告の承認を受けているか | |
| 生計一親族で15歳以上か | |
| 専ら事業に従事しているか | |
| 従事期間要件を満たすか | |
| 青色事業専従者給与に関する届出書を期限内に提出したか | |
| 職務内容・給与額・支給期が届出と一致しているか | |
| 給与額が労務の対価として相当か | |
| 実際に支払っているか | |
| 勤務記録・支払記録を保存しているか | |
| 源泉徴収・年末調整・源泉徴収票の処理をしているか | |
| 配偶者控除・扶養控除との重複がないか |
給与・外注・専従者の源泉徴収に不安がある方へ
犬飼公認会計士・税理士事務所では、個人事業者、フリーランス、不動産オーナー、医院・専門職・クリエイティブ業など、人への支払が発生する事業者について、給与・外注・専従者給与の区分、源泉徴収、年末調整、支払調書、インボイス、消費税、そして資料保存までを、一体で整理します。
給与か外注かは、勘定科目の問題ではありません。家族への支払も、家族だからといって自由に経費化できるわけではありません。源泉徴収もまた、確定申告時にまとめて考えればよいものではありません。
たとえば、次のようなお悩みです。
「初めて従業員を雇うので、何を提出すべきか分からない」
「アルバイトの源泉徴収をしていなかった」
「外注費として処理しているが、実態が給与ではないか不安」
「家族に給与を払いたいが、青色事業専従者給与として認められるか確認したい」
「年末調整、源泉徴収票、給与支払報告書まで含めて整理したい」
「過去の源泉徴収漏れや外注費処理を見直したい」
こうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。
契約書、請求書、給与台帳、勤怠資料、専従者給与届出書、会計データ、通帳、過年度申告書を拝見しながら、単年の申告だけでなく、翌年以降の人件費管理・源泉納付・税務調査対応まで見据えて整理してまいります。
この記事の振り返り
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 給与支払者 | 個人事業者でも給与を支払えば源泉徴収義務者になる |
| 給与支払事務所等 | 開設・移転・廃止から1か月以内の届出を確認 |
| 給与の源泉徴収 | 源泉徴収税額表、扶養控除等申告書、甲欄・乙欄・丙欄で判定 |
| パート・アルバイト | 給与であれば源泉徴収対象。短期雇用では丙欄要件を確認 |
| 扶養控除等申告書 | 最初の給与支払日の前日までに受領し、原則7年間保存 |
| 納付期限 | 原則として支払月の翌月10日 |
| 納期の特例 | 常時10人未満の給与支払者が申請により年2回納付できる |
| 年末調整 | 源泉徴収税額と年税額を一致させる精算手続 |
| 源泉徴収票 | すべての給与受給者について作成・交付が必要 |
| 給与支払報告書 | 市区町村へ提出し、住民税に関係する |
| 外注費 | 外注費という名称だけでは判断できず、実態で給与か請負かを確認 |
| 消費税 | 給与は課税仕入れではなく、外注費は課税仕入れになり得る |
| 元従業員の外注化 | 勤務実態が変わっていなければ給与認定リスクが高い |
| 青色事業専従者給与 | 専従性、届出、相当性、支払実態が必要 |
| 白色事業専従者控除 | 実際の給与を必要経費にする制度ではなく、控除制度 |
| 専従者と扶養 | 青色専従者給与を受ける人、白色事業専従者は扶養親族等になれない |
| 税務リスク | 源泉徴収漏れ、納付漏れ、不納付加算税、消費税否認、専従者給与否認に注意 |
| 資料保存 | 契約、勤怠、請求、支払、源泉、年末調整資料をつなげて保存する |
主な出典・参照情報:
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは
出典:国税庁|No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収
出典:国税庁|A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
出典:国税庁|No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
出典:国税庁|No.2514 パートやアルバイトの源泉徴収
出典:国税庁|A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告
出典:国税庁|No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間
出典:国税庁|年末調整がよくわかるページ(令和7年分)
出典:国税庁|給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)
出典:国税庁|No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等
出典:国税庁|No.7400 法定調書の提出義務者
出典:国税庁|源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ
出典:国税庁|消費税法基本通達 1-1-1 個人事業者と給与所得者の区分
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除