非上場会社の自社株承継というと、どうしても株価や納税猶予額の試算に意識が向きがちです。もちろん、そこは大切な論点です。ただ、その手前で必ず確認しておきたい会社法上の手続があります。譲渡制限株式の譲渡承認手続です。
多くの非上場会社では、定款で「株式を譲渡するには会社の承認を要する」と定めています。これは、会社にとって望ましくない第三者が株主となることを防ぎ、株主構成を会社側で管理するための仕組みです。
ところが、事業承継の場面では、この譲渡制限が見落とされやすいのです。たとえば、次のような場面が考えられます。
- 先代から後継者へ株式を売買する
- 親族間で自社株を贈与する
- 少数株主から後継者が株式を買い取る
- 役員・従業員承継のために株式を移す
- 事業承継税制の適用を前提に株式を移転する
こうした場面で、贈与契約・売買契約・自社株評価といった税務面だけを整えても、会社法上の譲渡承認、株主名簿の書換、議事録の作成、株券発行会社かどうかの確認が不十分なままだと、後から「その株式移転は会社に対して有効に主張できるのか」という問題が頭をもたげます。
事業承継税制は、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を、後継者が贈与や相続などにより取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税猶予や免除を認める制度です。特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、猶予割合も100%とされています。
加えて、法人版事業承継税制の特例措置を使うには、令和9年9月30日までに特例承継計画を都道府県へ提出し、令和9年12月31日までに贈与・相続によって会社の株式を取得する必要があります。
つまり、事業承継税制においては「株式を取得した」という事実そのものが極めて重要になります。だからこそ、その株式をどう移すか、その方法が会社法上もきちんと整っているかは、税制適用の前提として決して軽視できないのです。
譲渡制限株式とは何か
譲渡制限株式とは、株式を譲渡により取得することについて、会社の承認を要する株式をいいます。
会社法上、譲渡制限株式を持つ株主は、その株式を他人へ譲り渡そうとするとき、会社に対して、その取得を承認するかどうかの決定を請求することができます。
非上場会社で譲渡制限が設けられる主な理由は、株主構成を会社側で管理するためです。
非上場会社では、株主が単なる投資家ではなく、経営者、親族、役員、従業員、取引先、金融機関、元役員など、会社と何らかの関係を持つ立場であることが少なくありません。そのため、株式が自由に第三者へ流通してしまうと、少数株主問題、経営権争い、株式買取要求、株主総会運営の混乱、さらには将来のM&Aや再編時の障害につながりかねません。
ここで誤解しやすいのですが、譲渡制限は、株式の移転を完全に禁止する制度ではありません。会社が承認するか、不承認とする場合には会社または指定買取人が買い取るか、いずれにせよ一定の手続を通じて株式の移転先を管理する制度です。
この点を取り違えると、事業承継の判断を誤ります。「譲渡制限があるから、少数株主は株式を動かせない」わけではありませんし、逆に「譲渡制限があるから、後継者への贈与や売買は社内だけで自由にできる」わけでもありません。
譲渡制限がある会社では、株式を動かすときに、定款に従った承認手続が必要になる。まずはこの一点を押さえておきたいところです。
事業承継では、贈与・売買の前に定款を確認する
自社株を後継者へ移そうとするとき、最初に手に取るべきなのは定款です。具体的には、次の点を確認します。
- 株式の全部に譲渡制限が付いているか
- 種類株式ごとに譲渡制限が付いているか
- 譲渡承認機関はどこか
- 取締役会設置会社か、取締役会非設置会社か
- 定款に別段の定めがあるか
- 相続人等に対する売渡請求の定めがあるか
- 株券を発行する旨の定款の定めが残っていないか
会社法上、譲渡承認の決定は、原則として株主総会、取締役会設置会社であれば取締役会の決議によります。ただし、定款に別段の定めがある場合には、その定めが優先します。
したがって、同じ非上場会社といっても、承認機関は会社ごとに違います。取締役会が承認機関になっている会社もあれば、株主総会が承認機関になっている会社もあります。代表取締役が承認機関として定められている会社、種類株式ごとに別の扱いが必要な会社もあるでしょう。
ここを確認しないまま株式譲渡契約書や贈与契約書を作成しても、会社法上の手続が欠けてしまう可能性があります。
とりわけ親族内承継では、「家族のなかでの贈与だから会社の承認はいらないだろう」と考えられがちです。しかし、定款で譲渡制限が定められているのであれば、たとえ親族間であっても、株式を譲渡によって移す以上は、原則として承認手続の確認が欠かせません。
譲渡承認手続の基本的な流れ
譲渡制限株式を移転する場合の基本的な流れは、次のように整理できます。
1. 株式を移す前提を整理する
まず、誰から誰へ、どの株式を、どの方法で移すのかを整理します。確認したいのは、たとえば次のような点です。
- 売買なのか、贈与なのか、相続による取得なのか、自己株式取得なのか
- 後継者個人が取得するのか、資産管理会社や持株会社が取得するのか
- 事業承継税制の対象株式にするのか
ここで大切なのは、税務上の承継方法と会社法上の承認手続を切り分けて考えることです。
贈与税の納税猶予を受けるかどうかは、税務上の問題です。一方で、その贈与によって株式を後継者へ移すために会社の承認が必要かどうかは、会社法と定款の問題です。両者は重なりつつも、別の話として整理しておく必要があります。
2. 譲渡承認請求または取得承認請求を行う
譲渡制限株式の承認手続には、譲渡人側から会社へ承認を求める方法と、譲受人側から会社へ取得承認を求める方法があります。
譲渡承認請求では、譲渡する株式の数、種類株式発行会社であれば種類ごとの数、譲受人の氏名または名称などを明らかにする必要があります。
譲受人側から取得承認請求を行う場合は、原則として、株主名簿上の株主またはその一般承継人と共同して行わなければなりません。
事業承継の場面では、後継者側から「株式を取得したので承認してください」と動くケースもあります。その際、会社としては、誰からの請求なのか、譲渡人と譲受人の関係、請求の内容、買取請求の有無を正確に確認しておく必要があります。
3. 承認機関で承認・不承認を決定する
会社は、定款で定められた承認機関により、承認するか不承認とするかを決定します。
取締役会が承認機関であれば取締役会議事録を、株主総会が承認機関であれば株主総会議事録を作成します。代表取締役が承認機関とされている場合でも、決定の事実を後から説明できる資料は残しておくべきです。
ここで気をつけたいのが、譲渡当事者が取締役である場合です。取締役会で譲渡承認を行うとき、譲渡当事者である取締役が特別利害関係を有すると評価される場面では、その取締役が決議に加われない可能性があります。議決権の管理だけでなく、取締役会の定足数や決議要件にも影響しますので、承認機関の構成は事前に確認しておきたいところです。
4. 承認した場合は、株式移転と名義書換を行う
会社が承認したら、株式譲渡契約または贈与契約、代金決済、株券交付の要否、株主名簿の書換を進めます。
会社法上、株式の譲渡は、取得者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載または記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗できません。株券発行会社では、会社に対する対抗要件として株主名簿の記載が問題になります。
したがって、契約書を作成しただけでは足りません。後継者へ株式を移したつもりでいても、株主名簿が更新されていなければ、会社として誰を株主と扱うのかが曖昧なままになってしまいます。
事業承継税制の適用を検討する場合には、株式の取得日、株式数、議決権割合、後継者の保有状況を説明する必要があります。その意味でも、株主名簿の書換は実務上きわめて重要な作業です。
不承認とする場合は「みなし承認」に注意する
譲渡承認請求を受けた会社が不承認とする場合、いちばん注意したいのが「みなし承認」です。
会社法上、会社が一定期間内に決定内容を通知しないと、承認したものとみなされる場面があります。代表的なのは、請求の日から2週間以内に通知をしなかった場合で、このとき会社は承認する旨の決定をしたものとみなされます。
この2週間は、実務感覚としてはかなり短い期間です。
特に、取締役会非設置会社で承認機関が株主総会になっている場合には、株主総会の招集通知、開催、決議、不承認通知までを、この短期間でこなさなければなりません。定款で招集期間を短縮していない会社では、時間的な余裕がほとんどない、というのが実情です。
中小企業では、譲渡承認請求書が届いても、すぐにはその意味をのみ込めず、顧問税理士や弁護士に相談しているうちに2週間が過ぎてしまう、ということが起こり得ます。その場合、会社が望まない譲受人への株式移転を、承認したものと扱われてしまうおそれがあります。
これは、単なる手続ミスでは済みません。承継後の株主構成、少数株主権、株主総会運営、将来のM&Aや組織再編にまで影響しかねない、重大な問題です。
事業承継を検討している会社は、平時のうちから次の点を確認しておくと安心です。
- 譲渡承認請求の受付窓口を誰が管理するか
- 承認機関はどこか
- 取締役会または株主総会を迅速に開催できるか
- 不承認とする場合の通知期限を管理できるか
- 買取請求が含まれている場合に、会社または指定買取人が対応できるか
- 会社が自己株式として買い取る場合に、財源規制を満たせるか
譲渡制限株式の手続は、事前準備がないと期限管理でつまずきやすい領域だと考えておくとよいでしょう。
不承認とするだけでは終わらない場合がある
譲渡承認請求には、「会社が承認しない場合には、会社または指定買取人が株式を買い取ることを請求する」という内容が含まれていることがあります。
この場合、会社は不承認通知を出せばそれで終わり、というわけにはいきません。不承認とするのであれば、会社自身が買い取るのか、それとも指定買取人を指定するのかを、あらためて決める必要があります。
会社自身が買い取る場合は、自己株式取得となります。このときは、株主総会の特別決議、取得する株式数、取得対価、財源規制などを確認しなければなりません。
指定買取人を指定する場合は、定款や会社法上の機関設計に応じて、取締役会決議または株主総会の特別決議が必要になります。実務上は、後継者、経営株主、親族、持株会社などが指定買取人となることが考えられます。
ここで見落とせないのが、買取資金と株価です。
会社が買い取る場合には、会社の分配可能額や財務の安全性に影響します。後継者個人が買い取る場合には、後継者の資金負担が問題になります。指定買取人が法人であれば、法人税・所得税・贈与税・みなし贈与・時価取引といった論点が生じる可能性もあります。
譲渡制限株式の不承認は、あくまで株主構成を守るための手段です。とはいえ、不承認に伴う買取資金、株価算定、税務上の時価、会社財務への影響まで見込まずに進めてしまうと、かえって別のリスクを招きかねません。
譲渡承認手続と事業承継税制の関係
事業承継税制を使う場合、譲渡承認手続そのものは税制の要件ではありません。あくまで、株式取得の前提となる会社法上の手続です。とはいえ、実務上はこれが非常に重要になります。
法人版事業承継税制の特例措置では、親族外を含む株主から、代表者である後継者、最大3人への贈与・相続が対象とされています。さらに、贈与税の納税猶予では、後継者が贈与により取得した株式等のうち、議決権を行使できない株式は対象から除かれます。
つまり、制度のうえでは、複数の株主から後継者へ株式を集約していくことが想定されているわけです。
その一方で、それぞれの株式移転については、会社法上の承認、贈与・売買の成立、株主名簿の書換、税務申告資料との整合性が求められます。
たとえば、先代経営者から後継者へ株式を贈与する場合でも、定款上の譲渡制限があれば、承認機関の決議や議事録が必要になることがあります。
少数株主から後継者へ株式を売買する場合には、譲渡承認手続に加えて、売買価格の妥当性、低額譲渡・高額譲渡、みなし贈与、譲渡所得、株主間での説明可能性を確認しなければなりません。
先代以外の株主から株式を贈与により移す場合には、贈与者ごとの課税関係、相続時精算課税の適用可否、贈与税納税猶予の対象になるか、後継者の議決権割合がどう変化するかを、ひとつひとつ整理していく必要があります。
このように見ていくと、譲渡承認手続は、単に「会社法上の書類を作る作業」ではないことが分かります。事業承継税制で後継者にどの株式を取得させるのかを、法務・税務・議決権管理の三つの面から確定させる作業なのです。
株主名簿書換を忘れると、承継後の説明が弱くなる
譲渡承認を得たら、続けて株主名簿の書換を行う必要があります。
ところが事業承継の現場では、この株主名簿の書換が後回しにされがちです。契約書はある、贈与税申告書もある、株価評価資料もそろっている。それなのに、肝心の株主名簿だけが更新されていない――こうした状態は、率直に言って危険です。
会社法上、株主名簿は、会社が誰を株主として扱うかを判断するための基本資料です。事業承継税制の認定申請や税務申告においても、株主構成、議決権割合、取得株式数、後継者の保有状況を確認するための重要な資料となります。
株主名簿が更新されていないと、次のような問題が生じます。
- 後継者が株主として扱われていることを説明しにくい
- 議決権割合の推移が不明確になる
- 特例承継計画や認定申請資料との整合性が崩れる
- 相続発生時に、どの株式が誰の財産か争われる
- 少数株主や金融機関への説明が弱くなる
- 承継後の継続届出や取消リスクの管理に不安が残る
株式移転は、契約、承認、対価決済、株券交付、株主名簿書換、税務処理が一体としてそろって、はじめて後から説明しやすい形になります。
株券発行会社の場合は、株券の有無を必ず確認する
古くからある非上場会社では、定款上「株券を発行する」とされている場合があります。
現在は株券不発行会社が一般的ですが、過去に設立された会社では、株券発行会社のままになっていることが少なくありません。
この場合、株式譲渡の手続には株券の交付が関わってきます。会社法上、株券発行会社の株式譲渡では、株券の交付が重要な意味を持つからです。株券が見つからない、過去に株券を発行したかどうか分からない、定款上は株券発行会社だが現物がない――こうした場合には、株式移転の履歴や手続の有効性について、慎重な確認が必要になります。
事業承継の場面で特に注意したいのは、次のような会社です。
- 定款上は株券発行会社である
- 株券を発行したかどうか不明である
- 設立時の株券だけが残っている
- 過去の譲渡時に株券交付の記録がない
- 株券を紛失している
- 株券不発行会社への移行手続をしていない
こうした会社では、株式譲渡契約書や贈与契約書を作成するだけでは足りません。事業承継税制の検討に入る前に、定款、登記事項証明書、株券の現物、株主名簿、過去の議事録、株式移動の履歴を確認しておく必要があります。
株券発行会社のまま株式集約や後継者への移転を進めようとすると、手続はどうしても複雑になります。必要に応じて、株券不発行会社への移行を検討することもあるでしょう。ただし、その場合も定款変更、公告・通知、登記といった会社法上の手続が必要になりますので、事業承継税制の期限管理とあわせて、計画的に進めておきたいところです。
譲渡承認手続と税務上の時価は別問題である
譲渡承認を受けたからといって、その売買価格や贈与税評価が税務上も当然に認められる、というわけではありません。
譲渡承認手続は、あくまで会社法上、株式の移転先を会社が承認するかどうかの手続です。一方で、株式をいくらで売買するか、低額譲渡や高額譲渡に該当しないか、贈与税・所得税・法人税上どう扱うかは、税務上の時価判断の問題です。両者はまったく別の土俵にあります。
国税庁は、取引相場のない株式について、相続や贈与などで株式を取得した株主が経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または配当還元方式により評価する旨を示しています。
ただし、相続税評価額、会社法上の公正な価格、当事者間の売買価格、法人税・所得税上の時価は、目的や場面によって一致しないことがあります。
特に、少数株主から後継者へ株式を買い取る場合には注意が必要です。
- 相続税評価額で買えば常に安全とは限りません
- 額面価額で買えばよい、というわけでもありません
- 過去の取引価格をそのまま使えるとも限りません
- 配当還元価額と会社法上の価格が一致するとも限りません
親族間や同族関係者間の売買では、みなし贈与や低額譲渡の検討が必要になることもあります。
譲渡承認手続は、いわば株式移転の入口です。税務上の時価や課税関係、納税資金は、その先で別途検討すべき論点だと考えておくとよいでしょう。
事業承継で譲渡承認手続を誤りやすい場面
事業承継の実務では、次のような場面で、譲渡承認手続の漏れや誤解が生じやすくなります。
親族間の贈与だから承認不要だと思っている
後継者が子や親族であっても、定款で譲渡制限がある場合には、株式の移転について承認手続の確認が必要です。親族間で合意していることと、会社法上の承認手続が整っていることは、別の話です。
株式譲渡契約書だけ作成している
契約書があるだけでは、会社法上の承認や株主名簿の書換が完了したことにはなりません。特に、後継者が将来「いつから株主になったのか」を説明する必要がある場合には、契約書、承認議事録、名義書換記録、対価決済資料をセットで残しておく必要があります。
取締役会決議に譲渡当事者が参加している
譲渡当事者である取締役が譲渡承認決議に参加していると、特別利害関係の問題が生じることがあります。承認決議の有効性に疑義が生じれば、株式移転全体の説明も弱くなってしまいます。
不承認通知の期限を失念する
譲渡等承認請求を受けた場合、2週間以内の通知期限を失念すると、みなし承認の問題が生じる可能性があります。これは、少数株主が外部の第三者へ株式を譲渡しようとする場面で、特に重要になります。
買取請求の有無を確認していない
譲渡承認請求書に、会社または指定買取人による買取請求が含まれている場合、不承認通知だけでは終わりません。買取人、買取株式数、価格協議、供託、通知期限、財源規制などの追加対応が必要になります。
株券発行会社であることを見落としている
定款上、株券発行会社である場合には、株券の交付や株券の所在確認が必要になることがあります。株券の有無を確認しないまま株式を移すと、後から株式の帰属に疑義が生じる可能性があります。
譲渡承認手続を「後から説明できる形」にする
事業承継税制では、手続を行った事実を、後から説明できることが重要です。
そのため、譲渡制限株式の移転にあたっては、次の資料を整理しておく必要があります。
- 定款
- 登記事項証明書
- 株主名簿
- 株式譲渡契約書または贈与契約書
- 譲渡承認請求書または取得承認請求書
- 取締役会議事録または株主総会議事録
- 承認通知書または不承認通知書
- 株主名簿書換請求書
- 名義書換後の株主名簿
- 株券発行会社の場合は株券現物または株券喪失関係資料
- 売買の場合は代金決済資料
- 贈与の場合は贈与税申告書・納税猶予関係資料
- 自社株評価資料
- 特例承継計画・認定申請書との整合確認資料
これらは、単なる書類の保存ではありません。後継者の株主としての地位、事業承継税制の適用判断、将来の相続・少数株主対応、金融機関への説明、税務調査への対応――その一つひとつを支える基礎資料になります。
譲渡承認手続を事業承継の中でどう位置づけるべきか
譲渡制限株式の承認手続は、事業承継全体のなかの一部分にすぎません。しかし、この手続を軽く見てしまうと、承継そのものが足元から不安定になります。
事業承継では、後継者が代表者になるだけでは足りません。後継者が会社を安定して経営していくためには、株式・議決権・株主名簿・承認手続・税務評価・納税猶予・相続関係が、互いに整合している必要があります。
特に、事業承継税制を使う場合には、次の順番で考えていくことをおすすめします。
- 現在の株主構成と議決権を確定する
- 後継者に移すべき株式の範囲を決める
- 定款上の譲渡制限と承認機関を確認する
- 株式移転の方法を、贈与・売買・相続・自己株式取得のどれにするか比較する
- 会社法上の承認手続と株主名簿書換を実行する
- 税務上の株価評価、贈与税・相続税、納税猶予、届出・申告へ進む
- 承継後の継続届出、株式保有、議決権管理まで見据える
この順番を崩してしまうと、税務面は検討できていても、会社法上の株式移転が曖昧なまま、ということが起こりがちです。
専門家へ相談すべき場面
次のような状況がある場合には、譲渡承認手続を含めて、会社法と税務を横断的に確認しておくことをおすすめします。
- 定款の譲渡制限規定を確認していない
- 株式を贈与または売買する予定がある
- 後継者以外の親族や役員からも株式を移す予定がある
- 少数株主から株式を買い取る予定がある
- 譲渡承認請求書が届いた
- 買取請求が含まれているか分からない
- 会社が自己株式として買い取る可能性がある
- 指定買取人を誰にするか決めていない
- 取締役会や株主総会の議事録が整っていない
- 株主名簿の書換が未了である
- 株券発行会社かどうか分からない
- 事業承継税制の適用を前提に株式を移す予定がある
- 将来、組織再編・M&A・廃業の可能性も考えている
こうした場合、契約書を作るだけでは十分とは言えません。税務上の株価評価、贈与税・相続税、会社法上の承認手続、株主名簿、議決権、後継者の経営権を、一体のものとして整理していく必要があります。
まとめ:税務の前に、株式を正しく移せる状態を整える
事業承継税制は、後継者への自社株承継を支える、たいへん重要な制度です。
しかし、税務上の納税猶予を検討する前に、まず会社法上、株式を正しく移せる状態になっているかを確かめておかなければなりません。
譲渡制限株式がある会社では、次の点が重要になります。
- 定款で譲渡制限と承認機関を確認する
- 贈与・売買で株式を移す場合、譲渡承認手続を確認する
- 譲渡承認請求を受けた場合、みなし承認の期限を管理する
- 不承認とする場合、買取請求の有無を確認する
- 会社が買い取る場合、財源規制と自己株式取得手続を確認する
- 指定買取人を使う場合、決議機関と資金負担を確認する
- 株主名簿書換を確実に行う
- 株券発行会社の場合、株券の有無と交付を確認する
- 税務上の時価、贈与税・所得税・法人税の影響を別途検討する
- 後から説明できる議事録・契約書・申告資料を残す
譲渡制限株式の承認手続は、形式的な会社法手続ではありません。後継者の経営権を安定させ、事業承継税制の前提となる株式取得を「説明できる形」にしておくための、土台となる手続なのです。
ご相談について
譲渡制限株式の承認手続は、普段の決算や申告ではなかなか問題として表に出てきません。ところが、事業承継税制、後継者への株式贈与、少数株主からの株式買取、自己株式取得を進める段階になると、その重要性が一気に高まります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の適用可能性だけでなく、株主構成、譲渡制限、譲渡承認手続、株主名簿、自社株評価、贈与税・相続税、そして承継後の議決権管理まで含めて、後から説明できる承継設計を大切にしています。
後継者へ株式を移す前に、定款・株主名簿・過去の株式移動・株価評価・税務申告への影響を整理しておきたいという場合は、まずは現在の資料をもとに、株式移転の前提確認からご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 譲渡制限株式 | 定款で株式譲渡に会社承認が必要か | 後継者への株式移転の会社法上の前提になる |
| 承認機関 | 取締役会、株主総会、代表取締役など | 誰が承認決定を行うかにより手続・期限が変わる |
| 譲渡承認請求 | 株式数、種類、譲受人、買取請求の有無 | 承認・不承認の判断と期限管理の出発点になる |
| みなし承認 | 2週間以内の通知漏れがないか | 望まない譲受人が株主となるリスクを防ぐ |
| 不承認時の買取 | 会社が買うのか、指定買取人を指定するのか | 株主構成防衛と資金負担の両方に影響する |
| 自己株式取得 | 株主総会特別決議、財源規制、税務処理 | 会社財務・みなし配当・納税資金に影響する |
| 株主名簿書換 | 契約後に株主名簿を更新したか | 後継者の株主地位と議決権を説明する資料になる |
| 株券発行会社 | 定款・登記・株券現物の有無 | 株式譲渡の手続と有効性に影響する |
| 税務上の時価 | 相続税評価、売買価格、会社法上の価格の違い | 低額譲渡・みなし贈与・譲渡所得リスクを確認する |
| 事業承継税制との関係 | 株式取得、議決権、後継者要件、申告資料との整合 | 納税猶予を受ける前提として重要になる |