M&Aや事業承継、資本政策、組織再編を検討するとき、多くの場面でまず投げかけられるのは「この会社はいくらか」という問いです。
ただ、実務で本当に難しいのは、評価額という数字を一つ出すことではありません。
その金額は、いったい何を前提にした価値なのか。売主の希望価格なのか、それとも買主が許容できる価格なのか。税務上、問題にならない水準なのか。会社法上、株主や利害関係者にきちんと説明できる価格なのか。そして、金融機関、後継者、取締役、株主、社内の関係者に対して、後から合理的に説明できる判断といえるのか。
M&Aバリュエーションで本当に向き合うべき本質は、こうした問いの中にあります。
企業価値評価は、「価格を当てる技術」ではありません。会社の実態を数字と事実で捉えたうえで、取引価格としてどこまで受け入れられるのか、どこにリスクが潜んでいるのか、どの前提を確認しておくべきなのかを整理していく、いわば経営判断のインフラです。
このシリーズでは、企業価値評価を、M&A・承継・資本政策・組織再編における意思決定、価格交渉、説明責任、リスク管理を支える実務的な判断体系として整理していきます。
価値と価格は同じではない
M&Aの現場では、「評価額」「希望価格」「譲渡価格」「買収価格」「税務上の時価」「公正な価格」といった言葉が入り混じって使われます。これらを混同したまま話を進めると、価格判断そのものを誤ってしまいます。
価値とは、一定の前提条件のうえで算定される理論的な判断材料です。評価目的、評価基準日、評価対象、採用する評価手法、将来計画、当事者の立場が変われば、そのつど姿を変えます。
一方の価格は、売主と買主が交渉を重ねて合意する取引条件です。そこには評価額だけでなく、シナジー、競争環境、支払条件、DDで発見されたリスク、価格調整条項、アーンアウト、表明保証、補償、税務・会計上の影響までが織り込まれます。
日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」においても、企業価値評価は実務上参照される研究報告として位置づけられ、評価業務にあたって提供情報の有用性や利用可能性を検討することの重要性などが示されています。
出典:日本公認会計士協会|経営研究調査会研究報告第32号『企業価値評価ガイドライン』の改正について
出典:日本公認会計士協会|企業価値評価ガイドライン
このシリーズでは、評価額を「唯一の正解」として扱うことはしません。
どの前提に立てば、どの価値になるのか。どの前提が動けば、価値はどれだけ動くのか。どの評価額なら説明でき、どの評価額だと説明が難しくなるのか。そして、どの価格であれば取引条件として受け入れられるのか。
こうした問いを通じて、評価額を「意思決定のための判断レンジ」として扱っていきます。
M&Aバリュエーションで最初に整理すべきこと
評価手法に入る前に、まず確かめておきたいことがあります。「そもそも、何を評価しているのか」という一点です。
会社全体を評価しているのか。それとも特定の事業なのか。株式価値なのか、一部持分の価値なのか。支配権を取得する取引なのか、少数株主持分の移転なのか。税務・会社法・会計上の説明を目的とする評価なのか、売買交渉のための評価なのか。
ここが曖昧なまま評価手法に踏み込むと、計算結果がどれほど精緻に見えても、意思決定には使えません。
企業価値評価では、少なくとも次の概念を切り分けておく必要があります。
事業価値は、事業が将来生み出すキャッシュ・フローに基づく価値です。企業価値は、その事業価値に非事業資産や余剰資金などを加味した、企業全体としての価値を指します。株主価値は、企業価値から有利子負債や負債類似項目を差し引いた、株主に帰属する価値です。そして株式価値は、特定の株主が保有する株式そのものの価値であり、支配権の有無、少数株主持分、譲渡制限、流動性、種類株式の権利内容などによって、その見え方が変わってきます。
この違いを整理しないまま「会社の値段」を論じてしまうと、売主・買主・株主・税務当局・会計監査人・金融機関の間で、話の前提そのものが食い違ってしまいます。
決算書の利益や純資産だけでは判断できない
中小企業や非上場会社のM&Aでは、決算書上の利益や純資産をもとに価格が語られる場面が少なくありません。
もちろん、過去の利益や純資産は重要な情報です。ただ、それだけを頼りに取引価格を判断することはできません。
直近期の利益には、一時的な利益や費用、役員報酬、関連当事者取引、会計方針、非経常損益といった要素が紛れ込んでいることがあります。純資産のほうにも、帳簿価額と時価の差、遊休不動産、余剰現金、保険積立金、投資有価証券、含み損益、未計上債務、保証債務、退職給付、未払税金などが反映しきれていない場合があります。
また、利益が出ていても、売掛金や棚卸資産が膨らみ、運転資金を大きく必要とする会社では、手元にキャッシュ・フローが十分残らないこともあります。設備投資が欠かせない会社であれば、減価償却費だけを眺めていると、維持更新投資や将来の資本支出を見落としかねません。
M&Aバリュエーションでは、決算書を出発点としながらも、会社の正常収益力、財務実態、資金繰り、事業計画、将来キャッシュ・フローまで確かめていく姿勢が欠かせません。
このシリーズでも、評価手法の説明に入る前に、評価対象、評価基準日、利用資料、財務実態、正常収益力、事業計画の整理を重視していきます。
評価手法は「どれが正しいか」ではなく「何を見ているか」で理解する
企業価値評価の手法は、大きく分けると、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの三つに整理できます。
インカム・アプローチは、将来の収益力やキャッシュ・フローを起点に価値を考える方法で、その代表がDCF法です。マーケット・アプローチは、類似会社や類似取引、市場株価といった外部の市場データを参照して価値を捉える方法であり、類似会社比較法、類似取引比較法、EV/EBITDA倍率、PER、PBRなどが挙げられます。ネットアセット・アプローチは、資産と負債を基礎に価値を組み立てる方法で、時価純資産法が代表的です。
どの手法にもそれぞれの意味があり、同時に、それぞれの限界があります。
DCF法は、将来キャッシュ・フローを土台とするため、事業計画の前提、継続価値、資本コスト、感応度分析が大きな意味を持ちます。一見すると精密な計算に見えても、前提が楽観的であれば、評価額はたやすく過大になります。
マルチプル法は、相場感をつかみやすい反面、類似会社や類似取引の比較可能性が常に問われます。業種が同じでも、成長性、利益率、規模、資本構成、会計処理、支配権の有無、非事業資産の状況が違えば、倍率をそのまま当てはめることはできません。
時価純資産法は、資産負債の実態を把握するうえで有用ですが、継続的にキャッシュ・フローを生み出す事業の価値までは、十分に映し出せない場合があります。
ですから、大切なのは「どの評価手法が正しいか」を争うことではありません。その会社の状況、評価目的、取引スキーム、利用できる資料、説明する相手に照らして、どの手法が何を捉え、どこに限界を抱えているのかを見極めることです。
DCFで重要なのは計算式よりも前提条件
DCF法は、将来のフリー・キャッシュ・フローを現在価値へ割り引いていく評価手法です。
DCFと聞くと、複雑なExcelモデルや割引率の計算に意識が向きがちです。けれども、実務で本当に重要なのは、計算式そのものではなく、価値を大きく動かす前提条件のほうにあります。
どの売上成長率を採用するのか。利益率は過去実績と整合しているのか。役員報酬や非経常損益は調整されているのか。運転資本はどの程度必要になるのか。設備投資は、維持更新投資と成長投資に分けて捉えられているのか。税金は現実的に反映されているのか。継続価値が評価額の大部分を占めてしまっていないか。資本コストは事業リスクと整合しているのか。そしてシナジーを織り込む場合、買主固有の価値を二重に計上していないか。
DCFは、評価額を一つに決め打ちするための道具ではありません。むしろ、どの前提が価値を動かしているのかを浮かび上がらせ、判断レンジをつくり出すための道具です。
このシリーズでも、DCFを「高度な計算モデル」としてではなく、将来見通しとリスクを取引判断へと変換していく実務的な考え方として整理していきます。
マルチプルは相場ではなく、比較可能性の検討である
M&Aの場では、「EBITDAの何倍か」「同業他社では何倍か」といった話が頻繁に出てきます。
こうしたマルチプルは、実務のうえでとても便利です。売主・買主・仲介会社・金融機関の間で、価格感を共有しやすいからです。
ただし、便利であることと、そのまま使えることは別の話です。
同じEBITDA倍率であっても、対象会社のEBITDAが正常収益力を映していなければ、倍率を掛ける前提そのものが崩れてしまいます。設備投資負担の重い会社では、EBITDAが大きく見えても、フリー・キャッシュ・フローが手元に残りにくいことがあります。余剰資金や非事業資産、有利子負債、簿外債務が存在する場合には、EVから株式価値への調整も必要になります。
類似会社比較法では、事業内容、収益性、成長性、リスク、規模、資本構成、会計処理の違いを一つひとつ確認していきます。類似取引比較法では、取引時期、買主属性、支配権、シナジー、業界環境、情報開示の限界を踏まえたうえで読み解く必要があります。
マルチプルは、「相場を知るための簡易計算」ではなく、「比較可能性を検討したうえで、評価レンジを確かめるための補助線」として扱うべきものです。
非上場株式では、M&A価格・税務上の時価・会社法上の価格を混同しない
非上場株式の評価では、M&A価格とは別に、税務上の時価や会社法上の公正価格が問題になることがあります。
親族間の株式移転、同族関係者間の売買、法人と個人の間の取引、自己株式取得、少数株主からの買取り、株式交換、合併比率、スクイーズアウトといった場面では、当事者が合意した価格だけでは足りないことがあるのです。
税務の観点からは、低額譲渡、高額譲渡、受贈益、寄附金、みなし贈与、みなし配当などが論点になり得ます。相続税・贈与税の場面では、取引相場のない株式について、原則的評価方式や特例的評価方式などの整理が必要になります。国税庁も、取引相場のない株式のうち、同族株主以外の株主が取得した株式は、一定の場合に特例的な評価方式である配当還元方式で評価する旨を示しています。
出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価
もっとも、税務上の評価は、M&Aの取引価格そのものではありません。
M&Aで合意された価格が、税務上も常に問題ないとは限りません。逆に、相続税評価額が、第三者間M&Aの取引価格としてそのまま妥当とも限らないのです。
このシリーズでは、非上場株式評価を、M&A価格、税務上の時価、会社法上の公正価格、株主間の説明可能性に分けて整理していきます。
PPA・公正価値・のれんは、買収価格判断にも影響する
買収価格は、クロージングを迎えたら終わり、というものではありません。
買収の後には、会計上、取得原価を取得した資産・負債へ配分し、識別可能な無形資産やのれんを認識していく論点が生じます。日本基準では、企業結合における取得原価は、企業結合日時点で識別可能な資産・負債の時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に配分することとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
このPPAを経ることで、顧客関連資産、技術関連資産、商標、契約関連資産、のれん、負ののれん、償却負担、減損リスクといった項目が姿を現します。
買収価格が高ければ、その超過部分がのれんとなり、将来の会計負担や減損リスクへとつながっていく可能性があります。だからこそ、買収前の段階で、PPAや会計インパクトを概算でつかんでおくことは、買収価格の上限や投資判断を考えるうえでも意味を持ちます。
このシリーズでは、PPAを会計処理だけの論点にとどめず、「買収価格が買収後の財務諸表にどう影響するか」という価格判断の一部として扱っていきます。
評価額を取引価格に接続する
企業価値評価の結果が出たとしても、それだけで取引価格が決まるわけではありません。
実際のM&Aでは、DDで発見された事項、契約条件、支払条件、クロージング時点の財務状況、正常運転資本、ネットデット、表明保証、補償、エスクロー、アーンアウト、価格調整条項などが、最終的な価格判断を左右します。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、中小M&Aの一般的な手続の中に、バリュエーション、交渉、基本合意、DD、最終契約、クロージング後対応などが位置づけられ、最終契約後の支払変動としてアーンアウト条項や株価調整条項等も整理されています。
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)
評価額は、あくまで価格交渉の出発点です。
DDで過年度の利益に問題が見つかれば、正常収益力を見直すことになります。簿外債務や偶発債務が発見されれば、価格を下げるのか、契約で補償を受けるのか、スキームを変更するのかを検討します。クロージングまでに運転資本や有利子負債が変動する見込みであれば、価格調整の仕組みが必要になることもあります。
このシリーズでは、評価額と取引価格を切り離さず、評価結果を交渉条件・契約条件・意思決定資料へどう接続していくかを整理していきます。
このシリーズで扱う13のテーマ
このシリーズは、読者がご自身の課題に近い論点から読み進められるよう、13のテーマに分けて構成しています。
第1テーマ 価値と価格の基本設計
企業価値評価を、価格を当てる作業ではなく、判断材料を整える作業として位置づけます。評価額、希望価格、交渉価格、税務上の時価、公正価格を混同しないために、価値と価格、評価目的、評価基準日、事業価値、企業価値、株主価値、株式価値、売主価値、買主価値、説明可能な価値を整理します。
第2テーマ 評価対象と前提資料の整理
評価に入る前に、何を評価するのか、どの資料を根拠とするのかを整理します。会社全体、事業、株式、一部持分、評価基準日、決算書、月次試算表、事業計画、借入資料、株主構成、関連当事者取引、非事業資産、簿外債務などを確認します。
第3テーマ 正常収益力と事業計画
過去実績から将来キャッシュ・フローを描くための前提を整理します。一過性損益、非経常損益、役員報酬、オーナー依存、調整EBITDA、売上ドライバー、粗利率、固定費、運転資本、設備投資、資金繰り、シナリオ設計を扱います。
第4テーマ DCFとインカム・アプローチ
将来キャッシュ・フローに基づく評価手法を整理します。フリー・キャッシュ・フロー、予測期間、継続価値、永久成長率、出口倍率、資本コスト、WACC、感応度分析、DCFの誤用、APVやエクイティDCFなどを扱います。
第5テーマ マーケット・アプローチとマルチプル
類似会社、類似取引、市場株価を用いた評価を整理します。EV/EBITDA、PER、PBR、類似会社選定、類似取引の読み方、プレミアム、ディスカウント、比較可能性、倍率調整を扱います。
第6テーマ 純資産・時価純資産・非事業資産
貸借対照表を起点に、資産負債を価値判断へ接続します。簿価純資産、時価純資産、清算価値、不動産、有価証券、棚卸資産、固定資産、余剰現金、遊休資産、有利子負債、簿外債務、偶発債務を扱います。
第7テーマ 評価手法の選択・併用・レンジ化
複数の評価手法の結果を、矛盾ではなく判断材料として整理します。DCF、マルチプル、純資産の使い分け、評価レンジ、感応度、差異分析、クロスチェック、意思決定資料への整理を扱います。
第8テーマ 非上場株式・税務上の時価・会社法上の評価
M&A価格と税務・会社法上の評価が交差する論点を整理します。非上場株式、財産評価基本通達、同族株主、少数株主、配当還元、類似業種比準、純資産価額、自己株式取得、株式買取請求、スクイーズアウト、組織再編比率を扱います。
第9テーマ 取引価格・交渉・価格調整
評価額を実際の取引価格へ接続します。売主希望価格、買主許容価格、交渉レンジ、シナジー、プレミアム、DD発見事項、ネットデット、正常運転資本、価格調整、アーンアウト、表明保証、補償、エスクローを扱います。
第10テーマ スキーム別の評価・価格論点
取引スキームごとに、評価対象や価格判断がどう変わるかを整理します。株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、株式移転、自己株式取得、カーブアウト、比率算定、税務・会計影響を扱います。
第11テーマ PPA・公正価値・会計上の価格インパクト
買収価格が会計上どのように資産・負債・無形資産・のれんへ配分されるかを整理します。PPA、識別可能資産・負債、無形資産、のれん、負ののれん、プレPPA、償却、減損、日本基準・IFRS、公正価値測定を扱います。IFRS第13号は公正価値測定を定義し、個別基準に分散していた公正価値測定の要求事項を置き換える基準として位置づけられています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
第12テーマ 特殊資本・スタートアップ・PE/VCの評価論点
普通株式だけでは整理しきれない資本構成や投資条件を扱います。種類株式、優先株式、新株予約権、ストックオプション、転換証券、希薄化、プレマネー、ポストマネー、VC投資、PE投資、LBO分析を扱います。
第13テーマ 評価報告書・第三者評価・相談前整理
評価結果を意思決定に活かすために、専門家への相談前に整理しておくべき事項を扱います。評価依頼、株式価値算定書、評価報告書、第三者評価、フェアネス・オピニオン、評価目的、利用範囲、前提資料、説明先、相談前チェックリストを整理します。
このシリーズの読み方
このシリーズは、必ずしも第1テーマから順番に読み進める必要はありません。
ただ、価格判断に迷っている場合は、まず価値と価格の違い、評価対象、正常収益力、主要な評価手法を確認しておくことをおすすめします。
仲介会社や買主から提示された価格の妥当性を確かめたいのであれば、マルチプル、正常収益力、非事業資産、ネットデット、価格調整の論点を読むと、頭の中が整理しやすくなります。
親族間・同族関係者間・少数株主・自己株式取得が絡む場合は、非上場株式評価、税務上の時価、会社法上の公正価格を先に確認しておくとよいでしょう。
買収後の会計影響が気になる場合は、PPA、無形資産、のれん、減損リスクのテーマが重要になります。
専門家に相談する前に自社の状況を整理しておきたい場合は、評価対象、前提資料、相談前チェックリストから読み進めると、面談そのものの質が高まりやすくなります。
企業価値評価を専門家に相談すべき場面
企業価値評価は、簡易的な相場確認で足りる場面もあります。
その一方で、次のような場面では、個別の事情を踏まえた専門的な検討が必要になります。
提示された評価額を取引価格としてそのまま受け入れてよいか、判断がつかない場合。その価格の根拠が、事業計画、正常収益力、財務実態と整合しているかを確認したい場合。株主、後継者、金融機関、取締役会、親族、社内の関係者に説明する必要がある場合。非上場株式の税務上の時価、低額譲渡、高額譲渡、みなし贈与、みなし配当などが問題になり得る場合。少数株主、自己株式取得、株式交換、合併比率、スクイーズアウトなど、会社法上の説明可能性が重要になる場合。DDで発見された事項を、価格に反映すべきか契約で保護すべきか判断したい場合。買収後のPPA、のれん、償却、減損リスクまで踏まえて価格を判断したい場合。そして、評価報告書や株式価値算定書を手にしたものの、その前提や結論をどう読めばよいか分からない場合。
こうした場面で大切なのは、「いくらになるか」だけを確認することではありません。「なぜその金額になるのか」「どの前提が変われば判断が変わるのか」「どこまでなら説明できるのか」を整理しておくことです。
価格を決める前に、判断の前提を整える
M&Aバリュエーションで最も避けたいのは、見せたい価格に数字を合わせにいくことです。
売主であれば、高く売りたいという意識が働きます。買主であれば、安く買いたいという思いが顔を出します。仲介者であれば、取引成立に向けた価格目線を示すこともあります。社内の関係者であれば、自分の立場に有利な数字を求める場面もあるでしょう。
けれども、重要な取引判断であるほど、都合のよい数字ではなく、後から説明できる数字が必要になります。
評価目的は何か。評価対象は何か。利用資料は信頼できるか。正常収益力はどの程度か。事業計画は現実的か。キャッシュ・フローは十分か。非事業資産や負債は整理されているか。税務・会計・会社法上の論点はないか。DDで確認すべき事項は何か。そして、交渉条件や契約条項にどう反映すべきか。
これらを一つずつ整理して初めて、評価額は経営判断に使える情報になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A・事業承継・資本政策・組織再編における企業価値評価や取引価格判断について、評価額の算定にとどまらず、前提資料の確認、財務実態の整理、税務・会計上の論点整理、そして説明可能な判断材料の構築までを重視しています。
評価額や提示価格をそのまま受け入れてよいか迷っている場合、自社の株式価値や取引価格の考え方を整理したい場合、あるいは専門家に相談する前に論点を明確にしておきたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 論点 | 重要な考え方 |
|---|---|
| 価値と価格 | 価値は前提条件に基づく判断材料、価格は交渉を通じて決まる取引条件 |
| 評価目的 | M&A、承継、資本政策、組織再編、税務、会社法、会計で評価の意味が変わる |
| 評価対象 | 会社全体、事業、株式、一部持分、支配権の有無を切り分ける |
| 財務実態 | 決算書の利益や純資産をそのまま使わず、正常収益力・非事業資産・負債を確認する |
| DCF | 計算式よりも、事業計画、FCF、継続価値、資本コスト、感応度が重要 |
| マルチプル | 相場倍率ではなく、比較可能性と調整の妥当性を確認する |
| 非上場株式 | M&A価格、税務上の時価、会社法上の公正価格を混同しない |
| PPA・のれん | 買収価格は買収後の会計処理、無形資産、のれん、減損リスクにも影響する |
| 取引価格 | 評価額に加え、DD発見事項、価格調整、契約条件、支払条件を踏まえて判断する |
| 専門家相談 | 評価額を出すことよりも、後から説明できる判断材料を整えることが重要 |