法人版事業承継税制を検討するとき、「何株を後継者に移せばよいのか」という問いは、単なる株数の問題にとどまりません。
その株式は制度上の対象になるのか。議決権に制限はないか。後継者と同族関係者で過半数を確保できるか。後継者は同族内で筆頭株主といえるか。自己株式や単元未満株式、議決権制限株式をどう扱うか。こうした点を誤ると、納税猶予が使えるかどうかという問題だけでなく、承継後の経営権そのものが不安定になりかねません。
法人版事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を贈与または相続等によって取得した場合に、その非上場株式等にかかる贈与税・相続税について、一定の要件のもとで納税猶予を受けられる制度です。特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、納税猶予割合は100%、複数の株主から最大3人の後継者への承継までが認められています。
出典:国税庁|法人版事業承継税制 / 国税庁|No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等 / 国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等
ただし、特例措置で「全株式」が対象になるという説明を、「発行済株式のすべてが無条件に納税猶予の対象になる」と読み替えてしまうのは危険です。対象になるのは、あくまで原則として議決権に制限のない株式等です。さらにいえば、制度上の対象株式数と、経営上必要となる支配権の水準は、まったく別の話です。
本記事では、法人版事業承継税制の対象株式数、議決権、同族過半、そして同族内筆頭株主要件について、後継者の経営権確保と、承継後の取消リスクまで含めて整理していきます。
この記事で扱う範囲
本記事で扱うのは、法人版事業承継税制のうち、後継者が取得する株式・議決権に関する要件です。
具体的には、次の論点を取り上げます。
| 論点 | 本記事での整理 |
|---|---|
| 対象株式数 | 一般措置・特例措置における納税猶予対象株式の範囲 |
| 議決権に制限のない株式 | 対象株式に含められる株式と、含められない株式 |
| 同族過半要件 | 後継者と同族関係者で過半数を確保する考え方 |
| 同族内筆頭株主要件 | 後継者が同族内で最も多く議決権を持つ必要性 |
| 複数株主からの承継 | 先代以外の株主がいる場合の注意点 |
| 自己株式等の影響 | 自己株式、単元未満株式、相互保有株式、種類株式の扱い |
一方で、自社株評価の具体的な計算、類似業種比準方式・純資産価額方式の詳細、株価引下げ策の是非については、本記事では深く立ち入りません。これらは自社株評価・事業用資産評価・納税額試算という、別のテーマとして整理すべき論点だからです。
対象株式数は「税制上の上限」と「経営上必要な議決権」を分けて見る
法人版事業承継税制では、一般措置と特例措置とで、対象株式数の扱いが異なります。
特例措置では対象株数が全株式であるのに対し、一般措置では総株式数の最大3分の2までとされています。ただし、この対象株数は、いずれも「議決権に制限のない株式等」に限られる点に注意が必要です。
出典:国税庁|No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等 / 国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等
整理すると、次のようになります。
| 区分 | 対象株式数の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 一般措置 | 議決権に制限のない株式等のうち、総株式数の最大3分の2まで | 対象株式数に上限が残るため、猶予対象外の株式・税額が生じ得る |
| 特例措置 | 議決権に制限のない株式等について、対象株式数の上限を撤廃 | 「全株式」といっても、議決権に制限のある株式等は別途確認が必要 |
ここで押さえておきたいのは、税制上の「対象株式数」と、会社法・経営実務上の「支配権」とは、別の概念だという点です。
特例措置では、納税猶予の対象株式数の上限が撤廃されています。しかし、後継者がどの程度の議決権を持つべきかは、会社の株主構成、定款、種類株式、少数株主の有無、将来の組織再編や売却の可能性によって変わってきます。
「納税猶予の対象になる株式を、どこまで移すか」と、「後継者が経営を安定させるために、どこまで議決権を持つべきか」。この二つは、同じテーブルの上で検討すべきものですが、決して同一視してはいけません。
特例措置を使う場合の期限と前提
特例措置を使うには、特例承継計画の提出が前提になります。提出期限は令和9年9月30日まで、贈与・相続による株式取得は令和9年12月31日までとされています。あわせて特例措置では、対象株式数の上限撤廃、猶予割合100%、そして親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者最大3人への贈与・相続が対象とされています。
ただし、「期限があるから急ぐ」という発想だけで動くのは危険です。
期限までに形式的に株式を移したとしても、議決権の判定、同族内の順位、後継者の経営体制、親族間の合意、株主名簿の正確性、自己株式の有無といった点が整理されていなければ、承継後になって問題が表面化します。
特例承継計画を出す前に、少なくとも次の資料は確認しておきたいところです。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 株主名簿 | 株主、株式数、議決権数、名義株の疑い |
| 定款 | 種類株式、単元株制度、譲渡制限、属人的定め |
| 登記事項証明書 | 発行可能株式総数、種類株式、役員・代表者 |
| 決算書 | 自己株式の有無、純資産への影響 |
| 過去の株式移転資料 | 贈与、売買、相続、自己株式取得の履歴 |
| 親族関係資料 | 同族関係者、相続人、後継者以外の利害関係者 |
| 特例承継計画案 | 後継者、承継予定時期、承継後の事業計画 |
「議決権に制限のない株式等」に限られる意味
法人版事業承継税制で最も誤解されやすいのが、「対象株式は議決権に制限のない株式等に限られる」という点です。
特例措置の対象となる非上場株式等は、議決権に制限のない株式等に限るという取扱いになっています。特例対象贈与の判定でも、発行済株式または出資のうち「議決権に制限のない株式等」を基礎とした算式が用いられます。
実務上は、次のように分けて考えています。
| 株式・権利の類型 | 納税猶予対象株式としての扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 普通株式で全議案に議決権がある株式 | 原則として対象になり得る | 株主名簿・定款・発行履歴を確認 |
| 議決権一部制限株式 | 対象株式には含められない | 同族過半・同族内筆頭の判定では含める場面がある |
| 完全無議決権株式 | 対象株式に含められない | 税制適用だけでなく支配権にも影響しない |
| 単元未満株式 | 議決権を行使できないため原則対象外 | 贈与後に単元化する場合でも慎重な確認が必要 |
| 自己株式 | 会社自身は議決権を有しない | 総議決権数の分母から除外される影響がある |
| 相互保有株式等 | 議決権が制限される場合がある | 子会社・関連会社の保有状況を確認 |
この点については、「普通株式だから対象になる」と単純に考えてしまうと足をすくわれます。単元株制度、自己株式、相互保有株式、属人的株式、種類株式の定めによって、議決権の扱いが変わることがあるからです。
実務でも、単元未満株式は議決権を持たないため、特例制度の対象にはならず、同族過半要件・同族内筆頭株主要件・対象株式数要件の計算に影響してくる場合があります。
「総株主等議決権数」と「対象株式数」は一致しないことがある
対象株式数の判定で混乱しやすいのは、よく似た次の二つの概念が出てくるためです。
| 概念 | 意味 |
|---|---|
| 対象株式数 | 納税猶予の対象にできる株式数 |
| 総株主等議決権数 | 同族過半要件や同族内筆頭株主要件の判定で用いる議決権数 |
法人版事業承継税制の適用対象となる株式は、原則として完全に議決権がある株式です。一方で、同族過半要件や同族内筆頭株主要件の判定では、完全議決権株式に加えて、議決権一部制限株式を含めて判定する場面があります。
つまり、「納税猶予の対象になる株式」と、「議決権要件の判定で数える株式」とが、完全には一致しないことがあるのです。
この違いを見落とすと、次のような誤りが起こります。
| 誤り | 起こり得る結果 |
|---|---|
| 議決権一部制限株式を対象株式に含める | 猶予対象株式数を過大に申請する |
| 自己株式を総議決権に含める | 過半数・3分の2の判定を誤る |
| 単元未満株式を議決権株式として扱う | 対象株式数要件を誤る |
| 種類株式の内容を確認しない | 後継者の支配権を過大評価する |
| 相互保有株式を見落とす | 総株主等議決権数の分母を誤る |
見るべきは、株式数ではなく議決権数です。そして議決権数を見るときも、制度上の判定ごとに「含める株式」と「含めない株式」が異なる点に、注意を払う必要があります。
後継者1人の場合の対象株式数要件
後継者が1人の場合、特例措置における贈与では、先代経営者がどの程度の株式を贈与しなければならないかが問題になります。
考え方としては、贈与者と後継者の保有議決権数を合わせて総議決権数の3分の2以上になる場合には、贈与後の後継者の議決権数が3分の2以上となるように贈与します。一方、合わせても3分の2に満たない場合には、先代経営者が保有する議決権株式等のすべてを贈与する、という整理になります。
出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者
整理すると、次のとおりです。
| 状況 | 必要な贈与の考え方 |
|---|---|
| 贈与者と後継者の保有議決権数の合計が総議決権数の3分の2以上 | 贈与後、後継者が3分の2以上を保有するように贈与 |
| 贈与者と後継者の保有議決権数の合計が総議決権数の3分の2未満 | 先代経営者が保有する議決権株式等のすべてを贈与 |
ここで3分の2という水準が出てくるのは、会社法上の特別決議と関係しています。特別決議は、原則として議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上で成立します。定款変更、事業譲渡、合併など、承継後の重要な経営判断には、この特別決議が関わってきます。
とはいえ、後継者が3分の2を持てば常に安全か、というと、そうとも言い切れません。
定款で決議要件が加重されている場合、拒否権付株式がある場合、あるいは少数株主が帳簿閲覧請求や株主総会招集請求などを行使する場合には、後継者の経営はなお制約を受けます。
3分の2は、税制上も会社法上も重要な目安です。しかし、会社を守るための十分条件とまではいえません。
後継者が2人または3人の場合の対象株式数要件
特例措置では、後継者を最大3人まで置くことができます。親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者最大3人への贈与・相続が対象になります。
後継者が複数の場合には、各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ、同族関係者のいずれの者が有する議決権数をも下回らないことが、後継者要件として求められます。贈与者側についても、贈与後にそれぞれの後継者の議決権数が10%以上であり、最後の贈与の後に後継者が贈与者よりも多くの議決権数を有するように贈与することが必要です。
出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者
複数後継者の場合は、次の点を確認します。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 各後継者が10%以上の議決権を持つか | 形式的な後継者ではなく、一定の議決権を持つ必要がある |
| 各後継者が同族関係者の中で一定順位にあるか | 後継者以外の親族株主が実質的に支配しないかを確認する |
| 最後の贈与後に後継者が贈与者を上回るか | 先代に議決権が残りすぎていないかを確認する |
| 後継者間の議決権割合がどうなるか | 共同経営の意思決定ルールが必要になる |
| 後継者のうち1人が離脱した場合の影響 | 取消リスク、株式買取、次世代承継の検討が必要になる |
複数後継者という形は、親族間の公平を保ったり、経営チームを維持したりするうえで役立つことがあります。その一方で、議決権が分散するため、経営方針が割れたときに会社の意思決定が止まってしまうリスクも抱えています。
制度上「最大3人まで可能」であることと、経営上「3人に分けるべき」であることは、別の問題です。
同族過半要件は「後継者グループが会社を支配しているか」を見る要件
法人版事業承継税制では、後継者とその親族などで総議決権数の過半数を保有していることが求められます。贈与時において、後継者とその親族などで総議決権数の過半数を保有していることが、後継者要件のひとつとされています。
出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者
この要件の趣旨は、後継者が単に株式を取得するだけでなく、同族関係者を含めて会社の支配権を確保しているかどうかを確認するところにあります。
ただし、ここで一点、注意しておきたいことがあります。
同族過半要件は、「後継者本人が単独で過半数を持つこと」までを求めているわけではありません。あくまで、後継者とその同族関係者を合わせて過半数かどうかで判定します。
しかし経営実務では、同族全体で過半数を持っていても、後継者本人の議決権が低ければ不安が残ります。
たとえば、次のような株主構成です。
| 株主 | 議決権割合 |
|---|---|
| 後継者 | 25% |
| 後継者の母 | 20% |
| 後継者の兄弟 | 15% |
| 非同族株主 | 40% |
この場合、同族全体では60%を占めますが、後継者単独では25%にとどまります。母や兄弟の協力がなければ、後継者は安定して議案を通すことができません。
制度要件を満たすことと、後継者が経営を安定的に進められることとは、必ずしも一致しないのです。
同族内筆頭株主要件は「後継者が同族内で中心株主か」を見る要件
後継者が1人の場合、後継者は同族関係者の中で最も多くの議決権数を有している必要があります。複数後継者の場合には、各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ同族関係者の中で一定の順位にあることが求められます。
出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者
同族内筆頭株主要件は、後継者が同族グループの中で中心株主といえるかを確認するものです。
ここでいう「筆頭」は、必ずしも全株主の中で最大株主であることだけを意味するわけではありません。制度上は、あくまで同族関係者の中での順位を確認します。
しかし経営判断としては、全株主の中に大口株主がいるかどうかも無視できません。
たとえば、後継者が同族内で筆頭であっても、非同族の少数株主が大きな割合を持っている場合には、会社法上の少数株主権、株式買取請求、帳簿閲覧請求、株主総会招集請求、組織再編時の反対株主対応などが問題になり得ます。
同族内筆頭株主要件は、あくまで税制上の要件です。経営支配の安定性まで判断するには、同族外の株主も含めた全体の株主構成を見ておく必要があります。
「同数」のときはどう見るか
実務では、「後継者と他の同族株主が同数の場合に、筆頭株主といえるのか」という疑問がしばしば生じます。
この点については、先代経営者側の同族内筆頭株主要件では、他の同族株主が有する株式数を下回っていないことが必要とされ、同数の場合にも要件を満たすと整理されています。
ただし、同数で制度要件を満たすとしても、経営上はまた別の問題です。
後継者と兄弟が同数の議決権を持つ場合、平常時こそ問題は起きなくても、役員選任、役員報酬、配当、自己株式取得、事業売却、廃業といった場面で意見が分かれると、経営判断が停滞しかねません。
税制要件として「下回らない」ことと、経営権として「優位に意思決定できる」こととは、別の話なのです。
複数株主からの承継では「誰から、どの順序で、どの株式を移すか」が重要になる
特例措置では、先代経営者以外の株主から後継者へ株式を承継する場面も想定されています。これによって、親族や役員、従業員、過去に分散した株主が保有する株式を、後継者へ集約しやすくなりました。
しかし、複数株主からの承継では、株式移転の順序を誤ると、要件判定に支障が出ます。
とりわけ確認しておきたいのは、次の点です。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 先代経営者からの基幹的承継 | 先代から後継者へ、制度の中心となる株式移転が行われるか |
| 先代以外の株主からの承継 | 第二種特例贈与・相続の対象となるか |
| 各贈与者の株式数 | 贈与者ごとに必要な株式数を満たすか |
| 後継者の贈与直後の議決権 | 10%以上、筆頭要件、贈与者超過要件を満たすか |
| 同一年中の贈与か | 複数後継者・複数贈与者の判定に影響する |
| 認定区分 | 第一種・第二種、贈与・相続の区分を誤らないか |
株式が分散している会社では、単に「後継者に合計何%を持たせるか」を考えるだけでは足りません。
誰から移すのか。先代から先に移すのか。少数株主からの取得を先行させるのか。自己株式取得で整理するのか。あるいは相続まで待つのか。これらを、税制要件と会社法手続の両面から設計していく必要があります。
自己株式は議決権判定を大きく変える
自己株式とは、会社が自社の株式を保有している状態をいいます。会社法上、株式会社は自己株式について議決権を有しません。
そのため、自己株式がある会社では、発行済株式総数と総議決権数が一致しなくなります。
実務上は、自己株式があると次のような影響が出てきます。
| 影響 | 内容 |
|---|---|
| 総議決権数が減少する | 過半数・3分の2の判定の分母が変わる |
| 後継者の議決権割合が上がることがある | 自己株式取得後、後継者の議決権割合が相対的に上昇する |
| 対象株式数要件に影響する | 贈与すべき株式数の計算が変わる |
| 株主名簿と決算書の突合が必要 | 株主名簿だけでは自己株式の処理を誤ることがある |
| 会社財務に影響する | 自己株式取得には資金流出・財源規制・税務処理が伴う |
自己株式は、株主構成の整理や納税資金対策として活用されることがあります。ただし、会社が株式を買い取るには会社法上の財源規制があり、税務上もみなし配当、譲渡所得、取得費加算、法人側の処理などを確認しておかなければなりません。
対象株式数や議決権要件を整える目的で自己株式取得を行う場合でも、会社財務を傷めてまで実行すべきか、金融機関への説明がつくかを、あわせて見ておく必要があります。
自己株式は議決権を有しないため、株主名簿だけでなく、貸借対照表の純資産の部に自己株式がマイナス表示されていないかも確認しておきたいところです。
単元未満株式は「株式数」と「議決権数」のズレを生む
単元株制度を導入している会社では、1単元に満たない株式、すなわち単元未満株式には議決権がありません。
そのため、たとえば発行済株式数が100株であっても、定款で10株を1単元としていれば、端数となる株式は議決権を持たない場合があります。
ここで問題になりやすいのが、贈与や相続によって、後継者が以前から持っていた単元未満株式と、今回取得した単元未満株式とを合わせて1単元に達するケースです。
一見すると、贈与後には議決権が発生するように見えます。しかし、贈与者が贈与前に保有していた単元未満株式そのものは、贈与時点で議決権に制限のある株式として扱われるため、法人版事業承継税制の対象株式には含められない可能性があります。
単元株制度がある会社では、次の点を確認します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 定款上の単元株式数 | 1単元が何株か |
| 先代の単元未満株式 | 贈与対象に含まれていないか |
| 後継者の既存保有株式 | 贈与後に単元化するか |
| 議決権数の変化 | 贈与前後で議決権数が変わるか |
| 申請書の記載 | 株式数と議決権数を混同していないか |
単元未満株式がある場合には、株式数の合計だけで判断せず、贈与直前と贈与直後の議決権数を分けて整理しておくべきです。
議決権制限株式・種類株式がある会社は要注意
種類株式を発行している会社では、普通株式だけを前提にして考えるわけにはいきません。
会社法上、株式会社は、株主総会で議決権を行使できる事項について異なる定めをした種類株式を発行できます。事業承継の場面では、議決権制限株式、拒否権付株式、取得条項付株式、属人的定めなどが使われることがあります。
しかし、法人版事業承継税制では、後継者が取得する対象株式は、議決権に制限のない株式等である必要があります。議決権制限株式、完全無議決権株式、単元未満株式、自己株式、相互保有株式などがある場合には、対象株式数・議決権要件の判定で慎重な整理が求められます。
とくに、拒否権付株式、いわゆる黄金株を後継者以外の者が持っている場合には、制度の適用や取消リスクとの関係で問題になることがあります。第一種特例経営承継受贈者以外の者が拒否権付株式を保有していないことは、対象会社要件のひとつとされています。
出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者
種類株式は、後継者に議決権を集中させる手段として有効な場合があります。一方で、税制要件、株式評価、遺留分、少数株主対応、将来のM&A・組織再編にも影響します。
「議決権を設計できるから便利だ」と見るだけでなく、「税制適用後にその要件を維持できるか」まで確認しておく必要があります。
同族過半・同族内筆頭を満たさなくなると取消リスクがある
事業承継税制は、適用時に要件を満たせばそれで終わり、という制度ではありません。承継後も一定期間、代表者要件、株式保有、議決権要件、年次報告、継続届出などを管理し続けなければなりません。
認定後は、都道府県庁への年次報告書、税務署への継続届出書の提出が必要になります。税務申告後5年以内は毎年、その後は税務署に3年に一度、継続届出書を提出していく流れです。
取消事由としては、後継者が代表者を退任した場合、議決権の同族過半数・同族内筆頭要件を満たさなくなった場合、納税猶予対象株式を譲渡した場合などが挙げられます。
特に気をつけたいのは、日常的な株式移動や資本政策が、取消リスクにつながり得るという点です。
たとえば、次のような行為です。
| 行為 | 想定されるリスク |
|---|---|
| 後継者が一部株式を譲渡する | 納税猶予対象株式の譲渡による一部または全部取消 |
| 他の同族株主が株式を取得する | 後継者が同族内筆頭でなくなる |
| 増資を行う | 後継者の議決権割合が希薄化する |
| 自己株式を処分する | 総議決権数や後継者割合が変動する |
| 種類株式を変更する | 議決権要件・対象株式性に影響する |
| 会社分割・株式交換等を行う | 組織再編に伴う届出・取消リスクが生じる |
| 黄金株を後継者以外が保有する | 支配権・取消事由に影響する可能性がある |
制度適用後は、株主名簿の変更、定款変更、増資、自己株式取得、組織再編を行う前に、その都度、事業承継税制への影響を確認しておく必要があります。
経営権として見るなら「過半数」「3分の2」「100%」を分けて考える
税制要件では、同族過半、同族内筆頭、10%、3分の2といった数字が次々に登場します。
しかし、経営判断としては、議決権割合ごとに意味合いが違ってきます。
| 議決権割合 | 経営上の意味 |
|---|---|
| 50%超 | 普通決議を安定させる目安 |
| 3分の2以上 | 定款変更、合併、会社分割、事業譲渡など特別決議を見据えた目安 |
| 100% | 少数株主対応、組織再編、将来売却の柔軟性が高まる |
| 100%未満 | 少数株主権、株式買取請求、情報開示請求等への対応が必要 |
事業承継税制を使う場合、後継者が50%超を確保すれば、制度上の同族過半要件を満たす方向に近づきます。しかし、50%超だけでは、定款変更や組織再編、重要な資本政策を単独で進められるとは限りません。
また、3分の2を確保したからといって、全株式を保有しているわけではありません。少数株主が残る場合には、株主総会の運営、反対株主への対応、株式評価、将来のM&A時の同意取得などが、いずれ課題になってきます。
税制要件を満たすための議決権割合と、会社を長期的に守るために必要な議決権割合とは、同じではないのです。
「後継者にどこまで移すべきか」を判断する視点
対象株式数を決めるときは、税額だけでなく、次の順番で考えていくことをおすすめします。
1. 制度上、対象になる株式を確定する
まず、議決権に制限のない株式等を確定します。
発行済株式総数、自己株式、単元未満株式、種類株式、相互保有株式、属人的株式を確認し、制度上の対象株式数と総株主等議決権数を分けて整理します。
2. 後継者が同族過半・同族内筆頭を満たすか確認する
次に、後継者とその同族関係者で過半数を満たすか、後継者が同族内で筆頭といえるかを確認します。
複数後継者の場合には、各後継者が10%以上の議決権を持つか、同族関係者の中で一定の順位を満たすかを確認します。
3. 経営上必要な議決権割合を決める
制度上の最低ラインだけでなく、承継後に必要となる経営判断を想定します。
定款変更、事業譲渡、合併、会社分割、自己株式取得、役員選任、金融機関対応、そして将来の売却・廃業の可能性まで考えると、過半数で足りる会社と、3分の2以上を目指すべき会社とでは、判断が変わってきます。
4. 後継者以外の株主・相続人への説明を整理する
後継者に株式を集中させる場合には、後継者以外の相続人や少数株主への説明が必要になります。
自社株は換金性が低く、後継者は経営責任と取消リスクを負います。その一方で、他の相続人には、現預金・不動産・生命保険・代償金などで配慮する設計が必要になることがあります。
5. 承継後の管理体制を確認する
対象株式数を決める段階で、継続届出・年次報告・株主名簿管理・議事録管理・定款管理・自己株式管理まで、見通しを立てておくべきです。
納税猶予は、適用して終わる制度ではありません。承継後の管理体制がないままでは、将来の取消リスクを抱えたまま制度を使うことになってしまいます。
実務で使う確認表
事業承継税制の対象株式数・議決権要件を確認するときは、次の表を使って整理すると、議論が進みやすくなります。
| 確認項目 | 確認内容 | 判断上のポイント |
|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 普通株式・種類株式の内訳 | 株式数と議決権数を分ける |
| 自己株式 | 会社保有株式の有無 | 議決権なし、分母から除外され得る |
| 単元株制度 | 1単元の株式数 | 単元未満株式は議決権なし |
| 種類株式 | 議決権制限、拒否権、取得条項 | 対象株式性・支配権・取消リスクに影響 |
| 後継者本人の議決権 | 贈与・相続前後の割合 | 単独支配の安定性を見る |
| 同族関係者の議決権 | 親族・関係会社の保有割合 | 同族過半要件を確認 |
| 同族内順位 | 後継者が筆頭か | 同族内筆頭株主要件を確認 |
| 複数後継者 | 各人10%以上か | 共同経営体制を確認 |
| 先代以外の株主 | 親族・役員・第三者の保有株式 | 随伴的承継、買戻し、自己株式取得を検討 |
| 少数株主 | 反対株主・所在不明株主・名義株 | 会社法上の対応が必要 |
| 将来の再編・売却 | 合併、分割、株式交換、M&A | 議決権割合と取消リスクを確認 |
対象株式数の判断を、税額だけで決めてはいけない
対象株式数をどこまで移すかは、納税猶予額を最大化するためだけに決めるものではありません。
後継者に株式を集中させれば、経営権は安定しやすくなります。しかしその分、後継者には、納税猶予の継続管理、取消時の納付リスク、相続人間の調整負担、金融機関対応が一手に集まります。
反対に、親族間の公平を重んじて株式を分散させると、今度は後継者の経営権が不安定になります。株式が分散している会社では、少数株主権や買取請求、将来のM&A時の合意形成が問題になってきます。
ですから、対象株式数を決める際には、次のように多面的に考える必要があります。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| 税務 | どの株式が納税猶予対象になるか、猶予対象外の税額が残るか |
| 経営権 | 後継者が普通決議・特別決議を安定して通せるか |
| 株主関係 | 少数株主、親族株主、名義株、所在不明株主がいないか |
| 相続法務 | 遺留分、代償金、遺言、遺産分割との整合性 |
| 財務 | 自己株式取得や退職金で会社資金を圧迫しないか |
| 将来選択肢 | 組織再編、売却、廃業のときに制度が制約にならないか |
| 管理体制 | 継続届出、年次報告、株主名簿管理を続けられるか |
「対象になるから全部移す」「税額が下がるから移す」という判断だけでは、不十分です。
どこまで移せば、後継者は会社を守れるのか。どこまで移すと、後継者以外の関係者との摩擦が増えるのか。どこまで移すと、将来の再編・売却・廃業といった選択肢が狭まってしまうのか。これらを比較したうえで、判断していく必要があります。
まとめ
法人版事業承継税制における対象株式数・議決権・同族内筆頭株主要件は、制度を適用するための形式要件であると同時に、承継後の経営権を設計するうえでの重要な論点でもあります。
特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、複数の株主から最大3人の後継者への承継が認められています。しかし、対象になるのは原則として議決権に制限のない株式等です。自己株式、単元未満株式、議決権制限株式、相互保有株式などがある場合には、株式数と議決権数を分けて確認しなければなりません。
同族過半要件は、後継者と同族関係者で過半数を確保しているかを見る要件です。同族内筆頭株主要件は、後継者が同族関係者の中で中心株主といえるかを見る要件です。これらを満たしたとしても、後継者単独の経営権が十分とは限りません。会社法上の決議要件、少数株主対応、相続人への説明、金融機関対応まで含めて判断していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人版事業承継税制の対象株式数、議決権判定、同族内筆頭株主要件、自己株式・種類株式・単元未満株式の影響、自社株評価、株主構成の整理を一体として確認し、そもそも制度を使うべきか、どの株式を、どこまで移すべきかを整理します。後継者に経営権を集中させたいけれども、株主構成や対象株式数の判断に不安があるという場合は、お問い合わせページよりご相談ください。
振り返り
| 論点 | 重要なポイント |
|---|---|
| 対象株式数 | 特例措置では上限が撤廃されるが、対象は原則として議決権に制限のない株式等 |
| 一般措置 | 対象株式数は総株式数の最大3分の2まで |
| 特例措置 | 全株式が対象になり得るが、議決権制限株式等は除外確認が必要 |
| 後継者1人の場合 | 贈与後に後継者が3分の2以上を確保する、または先代保有株式をすべて贈与する場面がある |
| 複数後継者の場合 | 各後継者10%以上、同族内順位、贈与者を上回る議決権を確認する |
| 議決権に制限のない株式 | 完全に議決権がある株式を中心に対象性を確認する |
| 議決権一部制限株式 | 対象株式には含めにくいが、同族過半・筆頭要件では含める場面がある |
| 自己株式 | 会社は自己株式について議決権を有しないため、総議決権数の判定に影響する |
| 単元未満株式 | 議決権がないため、対象株式数・議決権判定で注意が必要 |
| 同族過半要件 | 後継者と同族関係者で総議決権数の過半数を保有しているかを見る |
| 同族内筆頭株主要件 | 後継者が同族関係者の中で中心株主といえるかを見る |
| 経営判断 | 税制要件だけでなく、普通決議、特別決議、少数株主対応、将来の再編・売却可能性まで確認する |
| 取消リスク | 適用後に同族過半・筆頭要件を満たさなくなると、納税猶予の取消につながる可能性がある |